大阪・泉南地域の石綿工場の元労働者らが石綿肺などを発症したのは国が必要な規制や対策をとらなかったためとして、国に損害賠償を求めた「泉南アスベスト 国賠訴訟」。2011年8月の大阪高裁判決(三浦潤裁判長)は被告の国側には非常に甘い見方を示す一方、原告側の主張に対しては正反対の厳しい見方をし 「悪魔の判決」と揶揄された。問題点を掘り下げる。(井部正之)
◆ 露骨な"官"への肩入れ
1972年の特定化学物質障害予防規則(特化則)制定時に国は事業場でのアスベスト粉じんの測定で報告・改善義務を設けなかった。アスベストの測定 結果の報告義務がなかったことことに対して原告側は、測定をしない事業者が少なくなかったことなどから制度が機能しなかったとして、国が報告の義務づけを しなかったことは違法だと主張していた。
ところが大阪高裁判決(第一陣)は、事業者は測定結果の報告が義務づけられているかどうかにかかわらず、局所排気装置がきちんと機能していることを確認するために粉じん測定が不可欠だと指摘。
〈測定結果の報告が義務付けられていないから測定を行わなかった(怠りがちになった)というのは、単に事業者が自らの怠慢行為についておよそ筋違いな正当化をすることにほかならず、国が測定結果の報告を法令上義務付けなかったことに基づくものではない〉と判断した。
原告側弁護団副団長の村松昭夫弁護士はこの判断はおかしいとして、理由をこう説明する。
「国の証人自身が、測定を義務づけながら30年経っても測定をしているところは60%にとどまるとして、明らかに国が報告を義務づけなかったことが問題なんだと証言しているんです」
国の証人というのは日本作業環境測定協会常任理事で『やさしい局排設計教室』(中央労働災害防止協会発行)などの著書もある局所排気装置や労働安全 衛生の専門家、沼野雄志氏である。沼野氏が国の証人として出廷した証人尋問で、たしかにそうした発言をしている。裁判の速記録から一部抜粋する。尋問して いるのは原告側代理人の村松弁護士である。
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