◆日本軍による戦争に追いつめられた村人たちの死
物語はそこで終わっています。何の罪もない村人たちの、あっけないほどの最期でした。
日本軍によって、戦争によって追いつめられ、洞窟の闇に潜むことを強いられた果てに、自らの失火が原因で生き埋めになり、炎に焼かれ、息絶えた人びと。
この人たちが、かくも無残な、不条理な死に見舞われなくてはならない理由など、どこにもありません。
かれらはただ戦争の災厄から逃れ、生き延びたいと欲していただけなのでした。
そもそも日本軍が侵攻してきさえしなければ、中国の大地でこのような死の惨禍も起こりえなかったはずです。
かくて、無告の死者たちが身を焼かれ炎となって発した「洞窟の中の満月」は、戦争という闇にゆらめく鬼火のような光となり、村人たちを全滅に追いやった日本軍の罪深さ、そしてその日本軍を送り出した日本国・日本国民の罪深さを照らし出します。
日本軍から見れば、中国の村人たちは敵国の住民であり、占領・支配の対象でしかありませんでした。
人間的な共感などを抱いたり、その死を悼んだりする必要もない無縁の他者だったのです。
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