IAEA国際原子力機関。本部はオーストリア・ウィーンにあり、年間予算は3億3千万ユーロ(12年度、約4千億円)。職員は2200人で、うち250人 が査察官であるという。このIAEAという国連の機関がどのような目的で生まれ、どんな仕事をしているのか。その査察はどのようなものなのか。京都大学原 子炉実験所OBの小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム

元京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん
元京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん

◆ IAEAの相矛盾した目的

ラジオフォーラム(以下R): IAEAについて、一言でどういう機関だと捉えていらっしゃいますか。

小出:もともと原子力と日本で呼ばれているものは、原爆から始まったわけで、いわゆる核兵器の技術とは切っても 切れない裏表の関係にあります。もともと原子爆弾というものは米国が造り、それ以降、ソ連、英国、フランス、中国というような国々が次々と原爆を造ってい きました。その中でこれらの国々は国連の常任理事国となり、その5か国はいわゆる核兵器保有国として、他の国には絶対に核兵器を持たせないという路線を ずっと敷いてきました。

しかしながら、米国などは、原爆を造るために膨大な施設を造ってしまったため、それが国家にとっての重荷になってきました。それで米国大統領のアイ ゼンハワーは1953年の演説で、「原子力の平和利用(アトムズ・フォー・ピース)」を提唱し、それまでに軍事的な目的で作った工場を、平和利用などと言 いながら、金儲けのために利用したいと考えたわけです。そのためには、世界中に原子力発電を売りつけなければなりませんが、原子力と呼ばれている技術と、 核兵器の技術とは全く同じ物なわけですから、平和利用と称して世界中に原子力技術をばらまいてしまうと、核兵器の独占が崩れてしまいます。そこで、なんと かしなければいけないと米国は思ったわけです。

そのためにつくられた組織がIAEAであって、この組織がやるべき仕事は2つあります。ひとつは原子力発電を世界中に広めるということです。もうひ とつは、広めながらも核兵器だけは他の国に持たせないことです。両立させるのは非常に難しいのですが、その2つの目的を担うために設立されたのがIAEA です。

R:つまり、原発は大いに普及させよう、しかし、核物質が軍事目的に転用されるのを阻止するために監視をしていこう。そういう目的だと考えていいですか?

小出:おっしゃる通りです。

R:このIAEA、実は2005年にノーベル平和賞を授賞していますが、これはどういう理由からでしょうか。

小出:ノーベル平和賞というのは、昔から変だなと私は思ってきました。例えば、かつて佐藤栄作さんがもらい、イ スラエルの首相ももらっている。米国大統領のオバマさんももらっているというようなことで、ノーベル平和賞というのは大変政治的な思惑の下に、与えられて きたのだと思います。IAEAも世界中に原子力発電をばらまきながら、なおかつ核兵器の拡散を防止するということに功績があったという政治的な理由で認め られたのだと思います。

R:原発を普及しながら核物質の拡散を止めるという、相矛盾する仕事を同時にやっているのがIAEAですね。

小出:そうですね。

◆ 不公平な査察制度

R:ところで、日本の非常に多くの施設がIAEAの査察対象になっているとのことですが。

小出:そうです。

R: 250ヶ所前後ということなのですが、これは小出さんが働いておられた京大原子炉実験所も査察対象なのですか。

小出:そうです。

R:具体的にどういう査察を行っているのですか。

小出:私のいた原子炉実験所にも当然、核燃料というものがあるわけですし、一部にはすぐに原爆に転用できるよう な高濃縮ウランというようなものも実験所にはあるのです。ですから、それが軍事用に転用されていないかということを調べるのがIAEAの役割ですから、頻 繁に私の職場にもやってきていました。

R:それは、日本人の職員ですか。それともウィーンからやってくるのですか。

小出:ほとんどは外国の職員です。

R:具体的には、どういうことをするのですか。

小出:実験所の中に、核物質を格納している場所があります。どういう場所にどれだけの核物質があるかというの は、例えば私自身も教えてもらえないという、原子炉実験所の中でも超機密事項に属しているわけです。IAEAの査察官が来ると、そういう場所を1ヵ所ずつ 回って行って、本当に機密を握っている人たちが査察官を案内しながら、「ここにきちんとある」ということを見せて歩くわけです。

R:日本中の原子力施設、関連施設の全てに同じような査察が入っているということですね。

小出:そうです。

R:これはこれで、当然きちんとやってもらわないといけないことではありますよね。

小出:当然、私自身はいかなる核兵器にも反対ですから、核兵器が広がっていくことに関しては反対です。ただし私 自身は、世界は公平であるべきだと思っていますので、核兵器保有国の5か国だけが核兵器を持ち続けていて、その他の国は絶対に持ってはいけないという理念 はおかしいと思います。

ですから、核兵器保有国がどんどん核兵器を減らしていくことと、他の国は持たないということが、同時並行で行われなければいけないのです。残念なが ら、現在の世界というのは大変不均衡な世界で、米国を中心とするいわゆる支配をする国々がますます支配を強めるというようなことになっているわけです。

R:なるほど。当然、そのアメリカ、ロシア、中国などの核大国もIAEAの査察を受けていると思うのですけれども。

小出:受けていないのです。

R:受けていないのですか?

小出:はい。核兵器保有国は、核兵器に関するものは査察対象外になっているのです。

R:では中国やロシアの原子力発電所はどうですか。

小出:たぶん原子力発電所という所は、査察を受けていると思います。軍事施設に関しては、全く査察を受けないでいいということになっているのです。

R:それは、やっぱり不公平は不公平ですね。

小出:全く話にならないほどの不公平だと、私は思います。ですから、現在の世界の矛盾の集約のような場所でIAEAというのは仕事をしているわけです。

 

小出裕章さんに聞く 原発問題

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