慌てた幹部たちは労働者の家を回って出勤を説得した。
「女性労働者たちは『報酬がまともに出ないのに工場になんか出られるか。飢え死にしてしまう』と言って幹部を追い返すとそれきりだったそうです。約束が守られないなら、今の朝鮮では誰でも同じように工場から出て行きますよ」
P氏は言う。
従来北朝鮮には職業選択の自由がなかい。コネやカネがないと、当局の指示通りに配置されて職場が決まる。ところがこの被服工場のケースでは、提示さ れた労働条件をもとに、本人の意思で応募し、そしてやめていった。つまり彼女たちは工場への出勤を労働の契約と捉えていたのである。
筆者はこれまで20年以上北朝鮮取材を続けてきたが、このような集団による争議的な動きを把握したのは初めてだ。中国企業の投資を受けていたという特殊性はあるが、北朝鮮に、政府や労働党が統制することが困難な労働現場が出現していることを物語っている。
その後、中国人の投資家はこの工場に見切りをつけ、稼働は止まってしまったという。
(この事件については、「北朝鮮内部からの通信・リムジンガン」7号に詳細を書いたので参考にされたい)。
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