北部の咸鏡北道のセッピョル郡にある被服工場で、女性労働者たちが一斉に出勤を拒否する事件があった。当局が約束した現物支給の給与が支給されなかったこ とに労働者が反発してのことだという。北朝鮮でこのような集団的な職場離脱が発生したとの情報が伝えられるのは稀なことだ。(リムジンガン編集部 石丸次郎)
職場放棄事件が発生したのは2013年10月。北朝鮮内部の取材協力者が現地で調査し伝えてきた。
この被服工場は、90年代の経済破綻の中でずっと稼働が止まっていた。12年になってセッピョル郡の幹部たちは、中国企業から投資を受けて動かすこ とを計画。セッピョル郡は豆満江を挟んで中国と接する地の利がある。幹部が訪中して小さな貿易会社と契約を結ぶことに成功した。囚人服や作業着などの加工 を請け負うことになった。
当初の労働条件は次のようなものだったと現地で取材したP氏は言う。彼の親族がこの工場で一時勤務していたのだ。
「一日12時間労働でトウモロコシそば三食を提供、給料は一ヶ月に白米30キロで現金支給はなし。この条件に多くの地元女性が飛びつき、採用には賄賂が飛び交うほどでした。私の親族はうまく入り込めたと喜んでいました」
現金支給なし、という待遇に応募が殺到したというのはどういうことなのか。この時点の白米の市場価格は1キロ当たり約5000ウォンほど。つまり実質的に15万ウォンの価値がある。
国営工場の一般的な労働者の国定の月給は2000ウォン前後なので約75倍にもなる。ちなみに当時の実勢為替レートは1米ドル=約9000ウォンだったので、米ドル換算にすると、白米30キロは16.7米ドルほどになる。これを転売して現金収入を得るのである。
工場は13年9月から生産を始めた。P氏の調べによれば最初の採用人員は135名で、男性は10人ほどだったという。ところがである。開業からたっ た一ヶ月で大問題が持ち上がった。給与の白米が約束通りに支給されなかったのだ。怒った女性労働者たちは、ほとんどが出勤を拒否してしまった。
「月給」用の白米は、中国企業が持ち込んで郡の役人を通して労働者に渡す約束だった。ところが、役人は「軍糧米」分として半分ほどを差し引いて労働者に支給した。これに彼女たちは怒ったわけだ。
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