大阪市を廃止して五つの特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」をめぐる住民投票が今月17日に迫っている。賛成が一票でも上回れば、投票率に関係なく 政令指定都市・大阪市が消滅することになる。究極の判断を委ねられるのは大阪市の有権者約211万人。各種世論調査では賛否が拮抗している。そんな中、今 月5日、京都大学大学院教授(公共政策論)の藤井聡さんら学者19人が大阪市内で共同会見、専門家の立場から「都構想」の危険性を指摘した。(新聞うずみ 火 栗原佳子)
会見の冒頭、藤井さんは「『都構想』のリスクについてマスメディアがほとんど論じてこなかった一方で、イメージ論が先行している。市民は大阪市の廃止・分 割という不可逆的な決定を迫られるにもかかわらず、適正な判断を行うことが極めて困難」と前置きし、医療行為における「十分な説明と同意」を意味する概念 に照らし、「リスクを明らかにしたインフォームド・コンセントが求められている」と、会見のサブタイトルを「インフォームド・コンセントに基づく理性的な 住民判断の支援に向けて」したことを説明した。
藤井さんと地方財政学が専門の立命館大教授、森裕之さんが呼びかけ人となり、こうした考えを趣意書にしてネットやSNSで拡散したのは4月27日。 その後約1週間で、会見直前までに126人が賛同し、そのうち105人(5月6日現在)から学者としての所見も届いた。藤井さんらの想定をはるかに超える 反響だったという。賛同者の専門分野は地方自治や都市計画、防災、教育、政治、環境など多岐にわたる。
◆ 「都構想」は防災・減災に未熟 南海トラフ地震考慮されていない
会見に臨んだ学者それぞれの問題提起を記しておきたい。
口火を切ったのは京大名誉教授の河田恵昭さん。政府の中央防災会議専門調査会座長や大阪府の有識者会議「南海トラフ巨大地震災害対策等検討部会」の部会長などを歴任してきた防災学の第一人者だ。
「東日本大震災の一番の教訓は、政策企画段階から防災・減災を考えなくてはならないということ。だが、政治家は、防災・減災は票につながらないと思っている。『都構想』の区割りや府との役割分担において防災・減災は全く考慮されていない」
南海トラフ地震では5特別区中、湾岸区に被害が集中、火災も大阪市内で100カ所以上発生すると予測されるという。しかし水道管の耐震化は遅れており、河田さんは断水を懸念、社会インフラの防災対策が急務だと指摘する。
「南海トラフは今起きてもおかしくないくらい危険。上町断層帯地震が起これば現状では大阪市だけでなく大阪府全域が壊滅するかもしれない。消防は府 に一括するというがそれでいいのか。『都構想』は防災・減災に未熟。行政サービスの最大の問題は安全安心だが、それがないがしろにされている」
「大阪都構想』の危険性に関する学者説明会は9日(土)10日(日)にも開かれる。
9日(土)午後1時半~3時半 ハートンホテル日本生命御堂筋ビル「コスモス」(中央区南船場4-2-4日本生命御堂筋ビル12F)
説明者 森裕之さん(立命館大教授)、冨田宏治さん(関西学院大教授)、薬師院仁志さん(帝塚山大教授)、藤井聡さん(京都大教授)ほか調整中
10日(日)午後1時半~3時半 TKPガーデンシティ大阪梅田「バンケット11A」(福島区福島5-4-21TKPゲートタワー11F)
説明者 河田恵昭さん(京大名誉教授)、村上弘さん(立命館大教授)、藤井聡さん(京大教授)ほか調整中 問い合わせは事務局(075-383-3239)