これまで原発に関わる様々な問題について、このコーナーで詳しい解説をしてくださった京都大学原子炉実験所の小出裕章さんが、この春現職を退官された。そ こで今回は、これからの日本の原子力研究のあり方、特に若い研究者の育成について、小出さんに語ってもらった。(ラジオフォーラム)
ラジオフォーラム(以下R): 41年間、お疲れ様でございました。原発の危険を訴え続けてこられた小出さんが大学から退かれるということで、今後の廃炉の問題や福島原発の処理など、そ ういうもろもろを担う原子力の専門家、原子力研究の人材というものがどうなってしまうのか気になるところです。その現状と未来について、小出さんのご意見 を伺いたいのですが。
小出:はい(笑)。とても難しい問いで、私が答えるべき筋合いではないと思いますが。
もともと日本では、原子力というのは、化石燃料がなくなってしまうから未来のエネルギー源だと言われていましたし、原子力ができれば、電気代の値段が付け られないぐらい安く発電できるとか、原子力発電所は決して事故を起こさないなどと聞かされて、今日まで来たわけです。そのために、大学でも多くの学生を集 めて、原子力を推進しようと教育をしてきたわけです。
今となってしまえば、全てが間違っていたということが証明されました。原子力の燃料であるウランは化石燃料に比べてはるかに貧弱な資源ですし、原子力発電所というのは巨大な事故を起こすということが、もう福島第一原子力発電所の事故で示されてしまいました。
そして、原子力発電の発電単価は、事故と無関係であっても、火力や水力に比べて高かったのです。事故の補償費用を含めれば、もうとてつもなく高い。 さらには生み出した放射性廃物の始末、今後100万年かかるわけですけれども、その費用を考えればもう途方もないくらい高いということが分かってしまって いるわけです。
もういい加減に目を覚まさなければいけないと思います。今後も原子力を進めようとするような人材は一切不要だと私は思いますし、大学での研究もやらない方がいいと思います。
R:そうなのですか。
小出:はい。けれども、私たちが原子力に夢を託してこれまでやってきてしまったがために、膨大な放射性物質をす でに生み出してしまいました。残念ながら、それを無毒化するという力が現在の科学にはありません。なんとか環境に漏れないように監視を続けるということし かできないわけで、そのための専門家というものはどうしても必要だと思います。
ただし、私自身は原子力にまだ夢があった時代にその夢のために自分の人生をかけようとしたわけですけれども、これからの人たちは私たちの世代が生み 出したゴミの後始末をとにかくやれというわけですから、そんなことに本当に夢がかけられるのだろうかと、私自身は不安があります。でも、必ず必要な仕事で すので、そういう学問の分野は残してほしいと思います。若い人にもそういう所で働いてほしいと、希望はしています。
◆ 7旧帝大から原子力工学科も原子核工学科もなくなった