◆ 「戦争法案」の怪しい正体
安倍政権の「戦争法案」をめぐる国会答弁は迷走に継ぐ迷走を重ねています。
5月4日の衆議院憲法審査会で、憲法学者たちから「戦争法案」は憲法違反だという厳しい指摘があり、大きな反響を呼びました。
それに対して、安倍政権は大慌てで、昨年の集団的自衛権の行使容認の際に持ち出した「砂川裁判最高裁判決」(1959年)を、再び引っ張りだして「戦争法案」の正当化に躍起になっています。
しかし「砂川裁判最高裁判決」は、本連載の第12回でも述べたように、「日本に駐留する米軍は憲法9条が禁じた日本の戦力にはあたらず、憲法違反ではない」という点に主眼があり、集団的自衛権の行使容認という判断などしていません。
安倍政権の主張はこじつけ以外のなにものでもありません。
しかも、本連載の第12回・13回で述べたように、「砂川裁判最高裁判決」の背後には、当時のマッカーサー駐日アメリカ大使に田中耕太郎最高裁長官が密談 で判決の見通しを語るなど、不透明な政治的動き、アメリカ側の干渉・政治的工作があったことが、アメリカ政府の解禁秘密文書で明らかになっています。
憲法で定められた司法権の独立が侵された、黒い霧におおわれた判決であり、その正当性が根本から疑われているのです。
また中谷防衛大臣は、「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのか、という議論を踏まえて閣議決定をおこなった」と、「戦争法案」よりも憲法を下位に置くような本末転倒のご都合主義そのものの答弁をし、野党に批判されて撤回に追い込まれる始末です。
安倍政権は立憲主義の重要性を理解せず、それを軽視してなしくずしにしようとしています。
憲法を基礎とする「法治」ではなく、時の権力者が恣意的に憲法を解釈して、政権に都合のよい法律を制定しようとする「人治」を優先させようとする政治的体質があらわになっています。
そのような「人治」は独裁体制につながるものです。
とにかく「戦争法案」は法的根拠の正当性からして怪しい正体があらわになってきました。