「都構想」に有権者はノーを突きつけた。だが、今回の住民投票で問われていたものを、メディア、識者も含めてどれほど多くの人が正確に理解していただろう。住民投票までの経緯を振り返りながら、この不毛な対立を改めて問い直したい(栗原佳子/新聞うずみ火)
◆野党共闘で反対
住民投票は「大阪市を解体し、五つの特別区に分割する」協定書への賛否が問われた。大阪市は全国20の政令指定都市中トップの財政状況。その大阪市を潰 し、権限の小さな特別区に「成り下がる」ことの是非が問われた。決して「大阪都」を良しとするかどうか問うものではなかった。
賛成多数になったとしても「大阪都」にはならず、大阪府のままだ。そもそも協定書には「大阪都」という文言もない。だがメディアの多くも通称の「都 構想」を多用したし、橋下氏も市主催の住民説明会や維新のタウンミーティングで「大阪都庁」などの言葉を使った。「なくなるのは大阪市役所」という曖昧な 説明もあった。
住民投票では推進派の維新に対し、自民から公明、民主、共産までが反対を訴え、連携した。自共が繁華街で合同演説会を開き、「呉越同舟」「自共合 作」などと言いつつ、互いの宣伝カーの上でマイクを握る一幕もあった。改憲絡みで「都構想」を支持する官邸サイドは「全く理解できない」(菅官房長官)な どと地方組織を貶めたものだが、協定書の中身が実行された場合の危機感で、保守も革新も一致していたということだろう。地域の商店会、医師会、歯科医師 会、薬剤師会なども次々と反対を打ち出した。
テレビCM、ネット広告、多種のチラシ。維新側は政党助成金などから4億円ないし5億円を宣伝費に投じ、寄せ集めの反対側を物量で圧倒した。維新の 主張に対し、反対側がビラや街頭演説などで全く逆の説明で反論すると、「デマに注意」などというチラシが全戸配布されるという具合だった。
「都構想」批判を展開してきた京大大学院の藤井聡教授(公共政策論)らは、有権者がリスクを理解したうえで理性的な判断を下せるようにと専門家19 人で緊急会見も行った。「防災対策は話にならない」「行政対策も大阪の力も低下」......、行政、政治、経済、法律、社会、地方財政、都市計画、防 災、教育、環境などそれぞれ専門家が「都構想」への疑問を投げかけた。
藤井教授らのもとには、ほかにも100人以上の学者が賛同と所見を寄せている。その中の何人もが街頭でマイクを握り、市民レベルの小さな勉強会など にも出席した。組織とは関係ない市民も自然発生的に活動に参加した。街頭でビラをまき、罵倒されながらも懸命に説明する姿もあった。勉強会やトークイベン ト、サウンドデモ、次々と仕掛ける若者たちのグループも生まれた。