シリア、イラクで勢力を拡大する武装組織イスラム国(IS)のニュースは連日大きく伝えられるが、シリア政府軍による反体制派地域への空爆 などはなかなか伝わってこない。シリアの首都ダマスカスは、アサド政権の政府軍が守りを固めるものの、近郊には反対体制派が優勢となった地区が点在する。 なかでも東ゴータ地区はもっとも広く反体制派が展開し、2年半以上にわたって政府軍の激しい空爆にさらされている。地区に暮らす住民の生活は、包囲と戦闘 で困窮している。東ゴータで活動する20代のカメラマン、ハッサン・アル・ディーン氏とネット回線電話を通じてインタビューし、状況を聞いた。【玉本英子 2015年2月・4月】
◆いま、どこにいるのですか?状況はどうですか?
ハッサン:シリア・ダマスカス近郊にある東ゴータ地区のサクバという町にいます。フリーのカメラマンで外国通信社を通 じて、町の状況を国外に伝える仕事をしています。シリア政府は断続的に攻撃を加えてきます。2月末にはドゥーマの村を攻撃、3階建てのビルが完全に倒壊し ました。空爆で私の家の2階部分も破壊されました。私や家族はその時、1階にいたので怪我ですみましたが、近所の赤ちゃんが亡くなりました。
◆毎日、空爆があるということですが、防空壕を作って身を隠したりすることはできないのでしょうか?
ハッサン:ゴーダでは、突然、空爆があります。急に上空から攻撃があって、人びとはどうすることもできない。ただ見ているしかない。それが私たちにとって普通の光景になってしまっているのです。
◆シリア政府軍は、たる爆弾を投下すると聞きましたが。
ハッサン:私のいる東ゴータでは今は使われていません。たる爆弾を使うには、ヘリコプターなどが使われます。自由シリア軍は高度な対空兵器を持っているので、使われないのです。2013年までは、たる爆弾攻撃はあり、多くの市民は死傷しました。
(※注:【たる爆弾・樽爆弾】ドラム缶のような大型容器に石油、可燃剤、爆発物、金属片などを詰め、上空から投下する爆弾。焼夷弾のような威力で焼き払う)
◆包囲下の東ゴータでは、住民は食糧や衣料品など確保に苦労していると思います。現在はどういう状況ですか?
ハッサン:正確にはわかりませんが、地区一帯には現在150万人が暮らしているといわれます。2年半以上にわたってシリア政府に包囲さ れてきました。住民が地区を出ることは事実上、まず出来ない状態です。もちろん食料は不足しています。住民は庭や空き地で、農作物をつくっています。例え ば、キュウリやトマトなどです。医薬品もなかなか入ってきません。東ゴータと他の町を結ぶ幹線道は1つしかありません。検問で政府軍にワイロを払ったりし て、わずかですが物資を入れています。ただ非常に高額になり、すべての人に行き渡ることはできません。例えば、砂糖はダマスカスでは1キロ約1ドルもしま せんが、東ゴータでは20ドルもするのです。
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◆住民はどのように命をつないでいるのですか?地元の人びとに仕事があるのですか?
ハッサン:親戚が国外にいる家族の場合はお金を送金してもらえるので、なんとかその日を生きている。でも、そのように頼る人がいない場 合、収入はゼロになります。1日1食だけでしのいでいる家族もあります。例えば、私が先日訪れたアンタルマのある家族は、母1人、子ども2人で、1日1食 で塩漬けのオリーブを数粒食べているだけでした。パンは無くて、オリーブだけですよ。
◆東ゴータに公務員はまだいますか?いれば、どこからお給料をもらうのですか?
ハッサン:アサド政権は今もシリアを統治しているという建前ですので、公務員は今もシリア政府から給料をもらえます。例えば(反体制派 組織が支配する)東ゴータや、IS支配地域内で以前から働いている公務員も給料を得ることができます。数か月に一度ですが、政府の機関まで行けば給料はも らえます。東ゴータとダマスカスの行き来は基本的に禁じられていますが、公務員は時々許されるのです。でも、検問などで止められてしまうこともあります。 (そういう場所では)政府軍の兵士からひどいことを言われたりします。(つづく)