◆自衛隊の「統制下」ともいえる綿密な派遣態勢
各種報道によると、バクダッドへの空輸では、地上からイラクの武装勢力の携帯ミサイルで狙われたことを示す警報が輸送機内で鳴り、機体を急旋回させて回避することが頻繁にあったといいます。
陸上自衛隊のサマワ宿営地は武装勢力によるロケット弾や迫撃砲の攻撃をたびたび受けました。移動中の自衛隊車両が仕掛け爆弾(路肩爆弾)の攻撃を受けたこともあります。
当時、日本政府は非戦闘地域への自衛隊派遣だと主張していましたが、事実上は戦場への派遣だったことがわかります。
このようにイラクの戦場と隣り合わせのクウェートの空軍基地内にまで、密かに日本から民間企業の社員が自衛隊支援の業務で派遣されていたのです。
防衛省が文書の情報開示にあたって示したように、企業や社員個人がテロの標的にもなりうるという危険を伴いながらです。
一連の開示文書によると、アリ・アル・サレム空軍基地などでの自衛隊支援の民間企業社員の派遣はほかにもあります。
2004年12月と05年4月には、航空自衛隊航空中央業務隊と某企業が、「航空自衛隊市ヶ谷基地とイラク復興支援派遣輸送航空隊間に整備中の海外派遣部隊用通信機能の移設に関する支援」に関して契約を結びました。
それぞれの「移設支援実施期間」は2005年1月18日~3月31日と同年4月18日~5月13日で、場所は航空自衛隊市ヶ谷基地とクウェートのアリ・アル・サレム空軍基地です。
企業側は「多重通信装置とネットワーク機器、電話機」など通信機能移設の技術支援をおこないました。クウェートに派遣された企業の技術者は、3名と7名です。
2007年7月にも航空自衛隊航空中央業務隊と某企業が、「海外派遣部隊用通信機能の賃貸借契約」を交わしました。
賃貸借の対象は、航空自衛隊市ヶ谷基地とクウェートのアリ・アル・サレム空軍基地とイラクのバグダッドにあるヴィクトリー基地と某国某所(黒塗り不開示)の間を結ぶ衛星送受信装置(パラボラアンテナ等)です。
その設置教育のために、企業の技術者4名がアリ・アル・サレム空軍基地に派遣されました。希望納期は7月31日とあります。ヴィクトリー基地に関しては、そこにいる自衛隊員に、アリ・アル・サレム空軍基地から何らかの通信手段を用いて説明したようです。
賃貸借契約書には、企業から航空自衛隊に、「通信機能の管理に従事する者について、関係者名簿を契約後速やかに作成し、提出する」よう定めた契約条項も記されています。やはり自衛隊が常に企業の派遣要員リストを把握しておくためです。
このように自衛隊の「統制下」ともいえる綿密な派遣態勢からは、派遣された企業の技術者が一種の「軍属」扱いをされているような印象を受けます。事実上の"戦地出張"といえる緊張感が伝わってきます。 続きを読む>>