原子力発電所が戦争やテロで攻撃を受けた場合、どれほどの被害が発生するのか。そのような被害予測を研究していたにもかかわらず、国がその研究結果を公表 していなかったことが、東京新聞の報道で明らかになった。甚大な被害が出ると知りながら公表を控えた国の姿勢について、元京都大学原子炉実験所・助教の小 出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)
◆「安全神話」を守るため
ラジオフォーラム(以下R):30年前の1984年、『原発攻撃被害報告書』を外務省が作成していたことが発覚しました。この報告書を小出さんは知っていましたか。
小出:東京新聞の報道があるまで知りませんでした。
R:中身はご覧になられましたか。
小出:本文そのものをまだ見る機会がないのですけれども、東京新聞も含めたいろいろな情報には目を通しました。
R:この報告書のポイントはどこにあると思いますか。
小出:当たり前のことなのですけれども、原子力発電所は運転をはじめると、膨大な放射性物質を原子炉の中に溜め込んでしまう機械なわけです。それが もし、破壊される、あるいは自分で事故に突入することになれば、大変なことになるということは、当然原子力の研究者は皆、知っていたわけです。
核戦争が起こって、原爆を落とされて国中あちこちが破壊されるということも当然あるわけですが、むしろ一番手っ取り早いのは原子力発電所を攻撃して壊してしまうことなのではないのかということは、もう原子力研究者の中では常識であったわけです。
それに関してのどのような被害が出るかということは、例えば米国などでは研究されてきていたのです。ですから、日本でも当然そのことを心配して、どんな被害が出るか、そして、対策が取れるのかどうかということを、検討しておかなければいけなかったのです。
けれども、日本の場合には、いわゆる核という軍事的な問題と、原子力の平和利用である原子力発電所では、全く別なものであるという宣伝が行き渡って いたために、原発が敵国からの攻撃で破壊されるというようなことは、全く考えてはいけないというようなことに恐らくなっていたのだと思います。
でも1981年に、実際にイスラエルがイラクの原子炉を破壊したことがあったのです。国際的にはそういう事が当然、想定されるわけですから、外務省 としてはやはりやらざるを得ないし、やってみたと。その結果があまりにも酷かったので、秘密にしてしまったということだと思います。