金正恩氏のデビュー時に起こった世界に隠されてきた悲劇がある。穀倉地帯の黄海道で2012年に発生した飢饉である。軍と首都平壌に食糧を回すために、農 村から無理に徴発したために発生した人災であった。餓死者まで発生した事態を現地でつぶさに見た農業担当幹部への極秘インタビューの二回目。(取材 石丸 次郎 訳・整理 リ・ジンス)
<奪われるために働く農民たちの悲惨>記事一覧
石丸 飢饉が起きた原因はどこにあると考えますか?
キム 穀倉地帯の黄海南道は、朝鮮の全穀物生産計画のざっと4分の1ほどを担っています。年間200万トン程度 の生産計画が割り当てられる。しかし、実際はずっと不振で、生産できるのは100万トンにもならず70~80万トンぐらいではないか。それに加えて11年 は洪水で流されてさらに悪かった。
だけど、(韓国と対峙する)最前線の大きな軍団の食糧は、その多くを黄海南道が引き受けているわけです。収穫は減っているのに計画分の軍糧米は出さ なければならない。延安、白川、青丹、甕津、峰泉、碧城、苔灘、康翎などが軍糧米の担当地区です。それから平壌市民の配給用の「首都米」は載寧、安岳、銀 泉、殷栗が受け持ちです。
石丸 郡によって軍糧米と首都米の担当が分かれているんですね。
キム 計画を達成できないと幹部たちの首が飛びます。それで、平壌の幹部は道(どう)の幹部に無理を言い、道の幹部は郡の幹部を圧迫します。郡の幹部は農場の幹部を絞り上げます。
「とても無理です」と言うと、「批判書を書け」とか、「『十大原則』を10回書け、20回書いて覚えろ」と言われる。党からやれと言われれば、無条 件にやらないといけないんです。それで農場幹部たちは、今度は作業班長を呼びつけて農場員たちに食糧を供出させるわけです。毎年1月か2月に国防委員会で 軍糧米の総括をしますが、計画を達成できなかった下から何番かの郡の責任書記(党のトップ)は解任されます。黄海南道では青丹郡の責任書記が解任されまし た。青丹郡は根こそぎ軍糧米として持って行かれて一番多く餓死者を出した地区です。人肉事件も起こりました。
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