武装組織イスラム国(IS)は先月、昨年8月のヤズディ教徒虐殺の映像を公開。「アッラーを信じぬヤズディ教徒に審判を下す」と虐殺を正当化した。ヤズディ教徒の多いシンジャルの隣町、タラファルにはシーア派が暮らしていたが、彼らは「異端の輩徒」などとして多数が殺害されている。スンニ派イスラム教徒のなかには、こうした虐殺に心を痛め、脱出を手助けした住民もいる。(写真の一部をぼかしています)(IS映像より)
武装組織イスラム国(IS)は先月、昨年8月のヤズディ教徒虐殺の映像を公開。「アッラーを信じぬヤズディ教徒に審判を下す」と虐殺を正当化した。ヤズディ教徒の多いシンジャルの隣町、タラファルにはシーア派が暮らしていたが、彼らは「異端の輩徒」などとして多数が殺害されている。スンニ派イスラム教徒のなかには、こうした虐殺に心を痛め、脱出を手助けした住民もいる。(写真の一部をぼかしています)(IS映像より)

 

◆ISによる集団殺戮と女性拉致から1年~なにが起きたのか
昨年8月、武装組織イスラム国(IS)は、イラク北西部のシンジャル一帯に暮らす少数宗教ヤズディ教徒(ヤジディ教徒)を襲撃した。集団殺戮と女性拉致、そして十数万の住民の大量脱出。逃れた山で包囲され、飢えと脱水症状で命を落とした人びとも少なくない。ヤズディ教徒攻撃をきっかけにアメ リカはイラクに軍事介入する事態となったが、町や村はISに占領されたままだ。拉致された女性は戦闘員に強制結婚させられ、自ら命を絶つ例もあいついでい る。アジアプレスはイラク戦争以降、10年以上にわたりヤズディ教徒を取材してきた。1年前、いったい何が起きたのか、そして現在、彼らが直面する苦悩と は。ヤズディ教徒の文化や歴史を紐解きながら、コミュニティを襲った未曾有の悲劇の実態を報告。現地取材のもと直接の証言を集めたリポートをまとめた。
【取材・報告:玉本英子】

【解説図解ムービー】イスラム国に包囲されたシンジャル山のヤズディ教徒(ヤジディ教徒)たちはおよそ5万。イラク政府軍は山への食料投下を実施したものの、クルディスタン地域政府のペシュメルガもともに救出には動くことはなかった。食糧も水も絶たれて住民は孤立。米軍は食料投下に続き、イスラム国拠点に対し、限定空爆を開始。地上からは住民救出のため、人民防衛隊(YPG)とクルディスタン労働者党(PKK)の部隊がシリア側からイスラム国の前線に突撃。戦闘の末、脱出路を確保し、住民の一部、約2万人を救出し、シリア側のYPG地域に搬送した。脱出路を通じて避難が進んだものの、山には一部住民が残っている。さらに拉致された数千人におよぶ女性たちはイスラム国戦闘員のあいだで強制結婚や奴隷として分配されている。)

 

イスラム国が町を攻撃し、主婦アムシャさん(19)は夫と生後8か月の乳児とともに逃げたが、隣町で他の住民たちと一緒に捕まってしまう。夫を含む男性50人ほどが路上に並ばされ、その場で銃殺された。モスルに移送されたアムシャさんは、結婚式場として使われていたような大きなホールに詰め込まれた。そこにはすでにたくさんの女性が収容されていて、戦闘員らしき男たちがやってきて、携帯電話で顔写真を撮り、「笑え」と強要され、殴りつけられた。監禁部屋にいた同郷の女性2人は自ら命を絶った。一人は首を吊り、一人は手首を切ったという。アムシャさんは子どもの命を考え、50代の男性との強制結婚を受け入れる。連れて行かれた家には戦闘員らしき男たちもいた。2週間後、子どもを抱えて勝手口から脱出。夜道を数時間さまようなか、地元住民と出会い、匿ってもらう。同情した住民は知人のクルド人を手配し、他人の身分証を使ってイスラム国の検問を抜け、安全なクルディスタン地域に逃れることができた。しかし、17歳の義理の妹はイスラム国に拉致されたまま、居場所もわかっていない。(イラク北部・シャリヤで9月玉本英子撮影)
イスラム国が町を攻撃し、主婦(19)は夫と生後8か月の乳児とともに逃げたが、隣町で他の住民たちと一緒に捕まってしまう。夫を含む男性50人ほどが路上に並ばされ、その場で銃殺された。モスルに移送された彼女は、結婚式場として使われていたような大きなホールに詰め込まれた。そこにはすでにたくさんの女性が収容されていて、戦闘員らしき男たちがやってきて、携帯電話で顔写真を撮り、「笑え」と強要され、殴りつけられた。監禁部屋にいた同郷の女性2人は自ら命を絶った。一人は首を吊り、一人は手首を切ったという。彼女は子どもの命を考え、50代の男性との強制結婚を受け入れる。連れて行かれた家には戦闘員らしき男たちもいた。2週間後、子どもを抱えて勝手口から脱出。夜道を数時間さまようなか、地元住民と出会い、匿ってもらう。同情した住民は知人のクルド人を手配し、他人の身分証を使ってイスラム国の検問を抜け、安全なクルディスタン地域に逃れることができた。(イラク北部・シャリヤで2015年9月玉本英子撮影)

 

<イラク緊急報告>イスラム国に拉致され脱出の女性に聞く(上)
イラクのヤズディ教(ヤジディ教)の町、シンジャルを制圧したイスラム国に拉致された女性。空爆のなかを脱出したが家族は行方不明のままだ...(2014/09/16)

 

〔イラク・シリア現地報告〕【第2部】写真特集(1)イスラム国の迫害にさらされるヤズディ教徒
イスラム国はイラク北部のヤズディ教徒の町を制圧。殺戮が始まり、住民の大量脱出があいついだ。玉本はイスラム国との最前線があるシンジャル地域に入り、いまも包囲下にある住民の状況を現地取材。(2014/10/29)

 

【写真特集】イラクのヤズディ教徒たち【第1部】(全7回)文化と迫害の歴史
イラクでイスラム国の殺戮と迫害にさらされている少数宗教ヤズディ教(ヤジディ教)。その宗教、風習、文化、苦難の歴史を伝える写真特集。(2014/09/01)

 

僕はイスラム国(IS)の軍事訓練所にいた~脱出したヤズディ少年は語る(1)
ISが公開したムジャヒディン少年戦士を養成する訓練所の映像。そこに映る少年すべてはイラクからシリアに拉致されたヤズディ教徒の子どもたちだったことが取材で明らかに。命がけで脱出した少年兄弟のインタビュー....(2015/06/24)

 

「イスラム国」(IS)に強制結婚させられた19歳のヤズディ女性(上)~集団殺戮と性的暴行、そして脱出
ISに赤ちゃんとともに拉致され、モスルに送られ戦闘員と強制結婚させられたヤズディ女性。「戦利品」と扱われ、繰り返し性的暴行を受けた。命がけのモスルからの脱出。IS支配下で起きている実態とは....(2015/04/09)

 

〔イラク〕北部シンジャルも「イスラム国」が制圧~多数のヤズディ教徒を殺害か
2014年8月3日、武装組織イスラム国(IS)はイラク北西部のシンジャル一帯に総攻撃。そこに暮らしていたのは少数宗教ヤズディ教徒だった。虐殺が始まり、数千人におよぶ女性がバスで拉致された....(2014/08/05)

 

「イスラム国」がヤズディ教徒約200人を解放・イラクのモスルから
1月17日、イスラム教スンニ派系武装組織イスラム国は、数か月にわたって拘束していた少数宗教のヤズディ教徒の一部、196人を解放。だがその実態は「解放」ではなく、労働力として使えない老人や病人を「遺棄」したのに近い状態だった....(2015/01/19)

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