石綿被害について国は責任回避のために嘘と隠ぺいの主張を繰り返してきたが、2014年10月、大阪・泉南地域のアスベスト被害者やその家族らが国を訴え た「泉南アスベスト国賠訴訟」で、最高裁は国の責任を断罪して終結した。第14回は「アスベスト被害の原点」とされるこの訴訟の最高裁判決を改めて振り返 るとともに、残された問題について考察する。(井部正之)

2014年10月9日、最高裁前で勝訴を知らせる原告側弁護士(撮影:井部正之)
2014年10月9日、最高裁前で勝訴を知らせる原告側弁護士(撮影:井部正之)

 

◆国の責任が初めて確定

2014年10月9日午後3時20分を過ぎたころから、東京・永田町にある最高裁の南門付近に集まった人びとがざわつき始めた。大阪・泉南地域のア スベスト被害者らによる国家賠償訴訟の最高裁判決が午後3時から予定されており、その結果がいつもたらされてもおかしくないからだ。

少しして近くにいた弁護団の1人がスマートフォンの画面に目をやった。電子メールの着信のようだ。「どうだった」と支援者の1人が声をかけると、あいまいに口をつぐんだ。しかし、何か言いたげな表情から、どうやら勝ったらしいと察しがついた。

それから30分ほどして法廷から出てきた弁護士が「勝訴」「最高裁 国を断罪」と書かれた紙を広げると「勝訴、勝訴だ!」と叫び声が聞こえ、わっと歓声が上がった。

「原告勝訴の判決が出ました! 最高裁が国の責任を断罪しました!」
さっきの弁護士が街宣車からマイクで連呼する。その声は徐々に涙声になっていった。

アスベスト被害をめぐる国の責任が初めて確定した。
提訴から8年半、最高裁判決までにすでに14人の被害者が亡くなっていた。
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