石綿被害について国は責任回避のために嘘と隠ぺいの主張を繰り返してきたが、2014年10月、大阪・泉南地域のアスベスト被害者やその家族らが国を訴え た「泉南アスベスト国賠訴訟」で、最高裁は国の責任を断罪して終結した。第16回は「アスベスト被害の原点」とされるこの訴訟の最高裁判決を改めて振り返 るとともに、残された問題について考察する。(井部正之)
◆あまりにも子どもじみた対応の厚労省
最高裁判決からわずか1時間後、厚生労働省の塩崎恭久大臣は「国の責任が認められたことについて、重く受け止めております。判決で国の責任が認められた原告の方に対しては、誠に申し訳ないという気持ちでおります。判決に従って、適切に対応したい」との談話を発表した。
ところが、同日夕方に原告や弁護団が厚労省を訪れると、あらかじめ連絡してあったにもかかわらず、担当部署は「判決を精査中」や「係争中」を理由に面会を拒否し、別の部署が対応する始末だった。
担当部署に対応を求める押し問答が2時間続き、翌日改めて対応となった。だが、翌10日午前も同じ対応が1時間半にわたって繰り返された。
原告らの要求は「判決を精査中なのはわかった。それは一切触れないからとにかく担当者が来て一言謝って欲しい」という実にささやかなものだ。
ところが、最高裁で加害者としての国の責任が断罪されたにもかかわらず、厚労省では担当者すら出てこないのだから驚きだ。
それにしても「係争中だから会えない」というのは理由になるまい。最高裁判決により差し戻された1陣訴訟にしても残りは損害額の算定のみ。すでに争点はないのだ。
それに水俣病被害をめぐる訴訟中でも環境省の担当部局責任者は原告と何度も面会している。むろん係争中の訴訟については何も答えないが、少なくともそれがあるべき姿であろう。少なくとも「(面会できないと)担当者が直接来てそう言うべき」との原告らの主張に理がある。
結局、10日午後に決まった面会にしても、大臣官房総務課の課長が対応し、ようやく原告に頭を下げた。
大臣により近い「上局」として納得したかたちだが、担当部局である安全衛生部計画課石綿対策室は最後まで対応を拒否し続けた。あまりにも子どもじみた対応といわざるを得ない。
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