1990年代の「苦難の行軍」と呼ばれる大社会混乱期前後から、北朝鮮で市場経済が急速に発達してきたことを、アジアプレスは繰り返し指摘してきた。原始的で粗末で規模も小さかった闇市場は、この20年足らずの間に全国津々浦々に広がって規模を何百倍に拡大させ、どんどん複雑化・高度化していった。
今や市場パワーは、北朝鮮の経済を牛耳らんとするほどの勢いを持つようになったのである。社会主義計画経済の破綻によって、ほとんどの職場で給与も配給も支給されなくなり、人々は商売に出るか、自分の労働力を売るかして、現金収入を得て暮らすようになった。北朝鮮に闇の労働市場が出現したのである。シリーズで報告する。
◇「失業がない」を誇る北朝鮮
「朝鮮民主主義人民共和国においては、失業が永遠になくなった。すべての勤労者は、希望と才能によって職業を選択し、国家から安定した仕事と労働条件の保障を受ける」
北朝鮮の社会主義労働法第五条はこのように謳う。家庭の主婦や身体に障害を持つ人たち(「扶養」と呼ばれる)を除いて、すべての人が何らかの職場に籍を置く制度を維持しているという意味では、この法文は今でも有効だといえるかもしれない。
しかし、職場に籍はあっても、多くの場合ほとんど報酬も配給も支給されず生活が成り立たないという現実から考えると、北朝鮮社会には失業者が溢れていると評価せざるを得ない。それでは、民衆はどうやって食べているのか? 職場に籍だけは置きながら、別に生業を持っているのである。
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