昨年6月、武装組織イスラム国(IS)は、イラク第2の都市モスルを制圧。独自に解釈した「イスラム法」を布告し、住民支配を固めている。ISはスパイを 警戒し、地域外との電話網を遮断しているが、今回、極秘の回線を使い、IS支配下の住民との直接インタビューをおこなうことができた。市内に暮らすアブ・ ムスタファさん(仮名・35)は現在、ISに高い税金を払い、タバコの販売をしている。外部との通話が発覚すれば、スパイとして処刑されるため、身元が特 定される情報は一部ぼかしてある。【アルビル・玉本英子】
◆どのような仕事をして生計を立てているのですか?
モスル市内でタバコを販売しています。ISは表面上、タバコや酒の販売を禁止しています。でも実際には売ることは出来ます。ただ公には商売できないので、 店を構えずに、連絡を受けてから直接手渡しで売ります。彼らは販売を黙認する代わりに高い税金を要求します。タバコ500箱を250万イラクディ ナール(約25万円)で仕入れていますが、ISは税金として100万イラクディナールを徴収します。そのため、以前なら1箱75円~100円程度だったマ イアミという銘柄が、現在8000イラクディナール(約800円)もします。
客の多くはIS関係者です。彼らは市民に「我々に従え、従わないと殺す」などと脅しますが、その実態は宗教とは程遠い人たちです。タバコは、バグ ダッドなどで仕入れたものを、一度シリアへ送り、シリアのIS支配地域を経由してイラクのモスルへ運んでいます。食糧などもそのような形でモスルへ運ばれ ています。
◆市民生活はどういう状態ですか?
モスルでもISに支配されている、ないにかかわらず、公務員は数か月に一度、イラク政府から給料をもらうことができました。しかし今は、もらえなくなりま した。多くの市民は収入がなく、生活ができない状況です。店に物が並んでいても買えないのです。日中は35度を超える暑さですが、電気は1日に2時間だけ です。水も出ないので、市民は地区にある水汲み場へ行きます。学校も閉鎖され、私の子どもたちは小学校へ行っていません。女性は外に出るときは体をすっぽ り隠す、黒いヒジャブを着なければなりません。そのため通りで見かける女性の姿はめっきり減りました。私は半年以上、自分の妻以外の女性の顔を見たことは ありません。恐怖支配のうえに、経済がまわらなくなったことで、人びとの生活は限界です。
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