R:この事例は、福島第一原発においては参考にならないということですか。

小出:福島第一原子力発電所の事故の場合には、原子炉建屋の地下部分に地下水が流入し、それが放射能汚染水と なってしまっています。そのため、チェルノブイリのように地上だけに石棺を造るということではダメなのです。地下にも、地下水との接触を断つような構造物 を造らなければいけません。しかし、地上にコンクリートの構造物を造る以前に、1、2、3号機には原子炉建屋の使用済み燃料プールの中にまだ使用済みの燃 料が大量に残ってしまっています。それをとにかく外部につかみださなければいけないのです。

R:その取り出し作業は簡単ではないですよね。

小出:そうですね。使用済みプールがある現場すら放射能で大変汚れてしまっていて、人が近づくことすらできない のです。いつになったらプールの中から使用済み燃料をつかみだすことができるのか、それすら分からないという困難な状況にあります。でも、やはりいつの時 点かでやらざるを得ないのです。

R:チェルノブイリとの違いとして、福島第一原発の場合には地下水が流れ込んできているといことは分かりました。東京電力と国は、その地下水を防ぐために凍土壁を造ろうといますが、実現は可能なのでしょうか。

小出:まあやってみるしかないとは思いますが、福島第一原子力発電所で造ろうとしているものは、深さ30メート ル、長さ約1.5キロメートルの凍った土の壁なのです。常に冷やし続けなければ、壁は融けてしまって意味がなくなってしまうわけです。まずそんな巨大な氷 の壁を造ること自体が難しいし、恐らくできないと思います。仮に一時的にできたとしても、長期間そんな壁を維持することは到底できないと思います。ですか ら、いつの時点かで、やはり恒久的なコンクリートと鋼鉄、あるいは、粘土という案もありますけれども、そのような壁を造らざるを得なくなるはずだと思いま す。
R:確かに、停電が起きるとその氷の壁は融けてしまうわけですよね。

小出:そうです。停電だけではないですよね。例えばポンプが故障したということであっても、冷媒は送れなくなりますのでだめですし、パイプが割れても、詰まってもだめなわけです。何十年にも渡ってそんなものを維持できる道理がありませんので、結局破綻すると思います。

R:なぜ私たちでも無理だと分かるようなことを国や東京電力は進めようとしているのでしょうか。

小出:彼らはやっていることが失敗しても全く困らないのです。何百億円かのお金をせしめて、ゼネコンがそれを請 け負うわけです。これがうまくいかないということになると、今度はまた次の壁を造ろうということになって、別のゼネコンがそれを請け負うわけです。何百億 円だか何千億円だか知りませんが、それをゼネコンがせしめて儲けていくということになるわけです。

R:ゼネコンが儲かる仕組みがもうできているのですね。

小出:ゼネコンという組織は、原子力発電所を建設する時に儲けて、事故が起きてしまった今も、除染ということで大儲けをしているわけです。凍土壁を造る、あるいはまた別の壁を造るという時でも、またどんどん大儲けができるというそんな構造になってしまっているのです。

R:なんとも腹立たしいお話ですよね。

小出:本当にそう思います。
福島第一原発事故の処理では汚染水の問題ばかりが大きく取り上げられているが、最も大きな課題は熔け落ちた燃料をどう処理し、廃炉に持っていくのかという ことだ。熔解した燃料さえ処理ができれば、一日400トンとも言われる汚染水もかなり減らすことができる。だが、熔け落ちた燃料がどこにあるのか、それす らいまだ明らかになっていないのが実情だ。

※小出さんの音声をラジオフォーラムでお聞きになれます。

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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