◇「事務所」に出勤する〝組長〟たち
A社長の一日は朝、恵山市中心部のある民家に出かけることから始まる。ここは彼の事務所であり、出勤するや否や電話との格闘が始まる。A社長は語る。
「普段のオレの仕事は、ほとんどが電話番なんだ。注文が多すぎて、電話が鳴りやまないんだよ。事務所を空けることもできないくらいだ」
事務所にはほかに、5、6人の男たちが出勤してくる。A社長の部下たちで、それぞれが労働者をまとめて現場の「組」(チーム)を仕切る、言うなれば「組長」たちである。

仕事の流れは、電話で発注を受けたA社長が、組長たちに「何時までにどこへ、何人の男たちを連れていき、どれぐらいの量の荷物をさばくように」という風に指示を出して進められる。

組長たちはそれぞれ、自分の住むエリアを中心に十数人の男たちをまとめている。つまりA社長の下には全部で百人前後の労働者がぶら下がっていることになる。組長たちは、自分がまとめている男たちの中から必要な人数を選抜して、現場へ連れて行く。現場は主に、恵山税関の周辺である。

A社長に仕事を依頼するのは、ほとんどが国の機関が経営する企業で、たまに国が正式に認めていない、それでいて半ば公然と商う「民間業者」からも発注がある。

企業の多くは朝鮮の資源を中国へ輸出し、受け取った対価で様々な物資を購入して国内へ運び込む。輸入される物資の多くは食糧や加工食品、電化製品などだ。

A社長はそうした物資の荷役を、いくらで請け負っているのか。彼の事業は非合法に営まれているので、当然のことながら法定料金などというものは存在しない。

A社長によれば、「料金は、オレと発注側の責任者との話し合いで決める。普通、食糧の場合は重量を基準に、電化製品の場合はケースの個数を基準にしている」とのことだった。

A社長は企業から受け取った代金を、自分で直接労働者たちに配ったり、あるいは組長たちを通じて配ったりする。労働者が受け取る賃金は日払いで、たとえば袋詰めの食糧の荷下しを1日やると、2009年の時点では7000ウォン~一万ウォンが支払われていた(当時の実勢レートで100ウォンは約2・5円)。

A社長や組長たちは、労働者に支払う賃金から「あっせん手数料」を天引きしている。たまに田舎から出てきたばかりで、賃金の相場がわかっていない労働者を雇ったときなどは、手数料として日当のほとんどをピンはねしてしまうこともあるようだ。

ひと袋10キロ以上はある食糧を、1日がかりで荷下しするというのは大変な作業だ。だから荷役の仕事は男性だけのもので、女性は雇ってもらえない。男性でも年寄りは敬遠される。

「すぐにバテてしまう年寄りが組に混ざっていると、その分ほかの
労働者が余計に働かねばならないからだ」(A社長)
人力市場からはじき出された年寄りの男性は、商売人の荷物を運ぶなど、個人で小さな仕事をこなすしかないのだ。(続く)
本稿は「北朝鮮内部からの通信・リムジンガン7号」掲載原稿を加筆修正したものです。
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