北朝鮮では社会混乱の続いた90年代後半から闇の労働市場が急拡大した。労働党の管理統制の及ばない労働現場、そして自由労働者が初めて登場したのである。その実態をシリーズで連載する。まず肉体労働市場について報告する。
<労働市場と自由労働者>記事一覧
◇労働市場と自由労働者
労働市場は非合法であるため、おおっぴらに募集がかけられるとか、中国の「人力市場」のように特定の場所に求職、求人する人が相互に集まって交渉するような光景が見られるわけではないという。労働力がどのように「取り引き」されているのか、不明な点が多いのだが、いくつか例を挙げたい。
1 肉体労働
国家による配置の制約を受けない「自由労働」でもっとも多いのは、リヤカーを使った荷物運搬や、荷役、建設土木などの力仕事だろう。アジアプレスの北朝鮮人の取材パートナーたちが撮影した映像にも、平壌を含めた各地でその姿が捉えられている。
リヤカーによる運搬業は古くからあった。もともとは協同組合に登録した人だけが、規定の料金を取って駅前などで営業していた。ところが、市場経済が拡大し、商売で荷物を持って移動する人が急増すると、運搬仕事に対する需要も拡大し、無登録でこの仕事に参入する人が続々と現れた。
今や、北朝鮮中の鉄道駅やバスターミナル、市場周辺で「手押し車屋(ソンスレクン)」と呼ばれるリヤカー引きの姿が見られる。個人営業が大部分だが、リヤカーを複数台持ち「引き手」を雇用しているケースも少なくない。
所有するリヤカーを一日いくらで貸し出す場合や、親方が客引きをして仕事は「引き手」にやらせる場合もある。「大学生や中学生が休みの日や放課後によく『引き手』をやっている」と、脱北者のペク・チャンリョン氏は述べる。
不定期だが、人力が集中して必要になる荷役や建設の仕事が、日雇いや臨時雇いになりがちなのは資本主義社会と同様のようだ。
党や行政の幹部や金持ちが家の塀を作ったり、部屋の内装をやり変えたり、庭に井戸を掘ったりという仕事に雇われるケースや、党や軍傘下の会社が販売目的でアパートを建設する場合などに、臨時雇いの労働者が募集されるという。
また大きな国営企業所でも、資材などの荷役仕事を労働市場に頼って「外注」することが増えているそうだ。
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