北朝鮮では学校を卒業すると、軍入隊者を除き国民全員が国が決めた職場に配置される。しかし、給料も配給もまともに出ない現実の中、人々は賄賂を払って職場離脱して商売にいそしむようになった。「職場を金で買う」行為も横行している。労働党は職場の組織活動を通じて人民を徹底管理してきたが、そこに大きな空洞が生じているのである。
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◇「金払って職場離脱」が横行
北朝鮮では、無断欠勤は処罰の対象である。注意に従わない場合は、労働鍛錬隊という短期強制労働施設に収容される(6ヶ月未満、裁判なし)。
そこで庶民は、自由労働や商売をする時間を確保するための無断欠勤を黙認させるのに、二つの対抗策を採った。ひとつは金を払って、職場離脱を出勤扱いにしてもらうのだ。これを「8・3」をするという。給料も配給もろく出さない職場に、逆に金を支払うというのも不条理な話である。
北朝鮮の国営企業の多くは、稼働低迷状態から抜け出せないでいるのに、国は計画の達成や一定の現金や現物の上納を求めてくる。ろくに生産できない企業所の幹部たちにとっては、所属する労働者たちが支払う「8・3」は重宝されるのだという。
ちなみにこの「8・3」という語であるが、もともとは、企業所の生産活動で出る副産物などから、人民生活に必要な品=「8・3人民消費品」を創意工夫して作るようにという金正日総書記の指導に由来する(84年8月3日に指導がなされた)。
しかし余り物をかき集めてにわか仕込みで消費物資を作ってもロクなものはできない。それで、「8・3」とは質の悪いニセ物、まがい物を指す代名詞のようになった。転じて「ニセ出勤」のことも「8・3」と呼ぶようになったのである。
「8・3」の相場はというと、地域や職場によって異なるが、1ヶ月に2~10万ウォン程度だという (約250~1250円、14年10月の実勢レートによる)。
庶民のもうひとつの対抗策は、金で職場への配置を「買う」ことだ。誰しも、収入が多く、安全で、楽で、自分の適性に合う職場で仕事をしたいものだ。「8・3」に寛容な職場も人気が高い。この「買職」は、労働資源を国家が管理動員する体系を根本から崩すもので、個人の職業選択の余地が少し広がったことを意味し、今ではすっかり北朝鮮社会に定着してしまっている。
炭鉱、鉱山などの危険な仕事や、もっとも生活が苦しい農場には誰も行きたがらない。農場や炭鉱に生まれた人は、別の都市に行って別の職に就くことを希望しても、政府の労働課はそれを許さなかった。親が農場員なら子々孫々、農場に配置されたのである。
それでも人員が足りず、除隊軍人が有無も言わさず、農場や炭鉱に集団配置されるような事態も起こっているが、それも変化している。
「金さえあれば、農場から都市に配置されることも可能になったし、軍除隊時の配置から農場や炭鉱を外してもらうことも可能だ。言い換えると、貧乏人が、一番貧しく危険で辛い低収入の仕事をさせられるということだ」
と、ペク・チャンリョン氏は言う。
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