イラクに駐留する米兵(左)。イラク軍の訓練など後方支援にあたっている。2007年、撮影玉本英子(アジアプレス)
イラクに駐留する米兵(左)。イラク軍の訓練など後方支援にあたっている。2007年、撮影玉本英子(アジアプレス)

 

「対テロ戦争」には、これまでになく多数の女性兵士が派遣されている。女性は合衆国の歴史が始まって以来戦争に関与しているが、軍内で重要な役割を果たす ようになったのは、ヴェトナム戦争後である。アメリカが地上軍を投入したヴェトナム戦争(1965―73年)において女性兵士は、看護などの医療・衛生分 野に従事し、兵員全体に占める割合は2パーセントにすぎなかったが、湾岸戦争(1990―91年)では、11パーセントに増加した。

現在のアメリカ軍では、女性もほとんどの任務に就くことが可能となり、女性が現役軍人の15パーセントを構成している(10)。女性兵士のうち、行 政・衛生分野の任務にあたっているのは半数以下で、多くは憲兵や、戦艦、戦闘機、空中給油などの戦闘支援任務に携わっている。女性が戦闘任務に就くことは 許されていないが、戦闘を現場で支援する業務に携わっており、攻撃の対象となる。

「対テロ戦争」に派兵されている兵士の中には、当初の契約期間を超えて、何回も繰り返し派遣される人も少なくない。兵員不足のため契約期間を軍が一方的にたびたび延長しているためである。複数回派兵された人は、約80万人に及ぶ(11)。

いちかわ・ひろみ
京都女子大学法学部教授。同志社大学文学部、大阪大学法学部卒業。神戸大学法学研究科修了。専門は国際関係論・平和研究。著書に『兵役拒否の思想─市民的 不服従の理念と展開』(明石書店)。共著に『地域紛争の構図 』(晃洋書房)、『国際関係のなかの子ども』(御茶の水書房)ほか。
※本稿の初出は『人間存在の国際関係論』法政大学出版局(2015年)に収録された、市川ひろみさんの論考「『対テロ戦争』の兵士と家族」です。

【以下注】
(1) 本稿では、アメリカ合衆国によるアフガニスタン、イラクへの軍事作戦に限定する。
(2) Iraq Body Count, http://www.iraqbodycount.org/(2013年5月10日).
(3) United Nations Assistance Mission in Afghanistan, AFGANISTAN Annual Report 2012: Protection of Civilians in Armed Conflict (Kabul: February 2013). アフガニスタンでは、Iraq Body Countのように民間人の犠牲者数の統計がない。2007年から国連アフガニスタン支援団が統計を公表している。
(4) Iraq Body Count, http://www.iraqbodycount.org/(2013年5月10日).
(5) 現実には、この制度を利用するためには前金を支払う必要があり、また、高騰する学費のすべてを賄える額ではない。貧困世帯では、そもそも高校までに十分な学力を身につけられていない人も少なくない。怪我や病気で契約期間を全うできなかった場合、奨学金は受けられず、大学で勉強できる人は限られている。卒業する人はさらに少数にとどまる。
(6) The Development, Relief, and Education for Alien Minors (DREAM) Act. アメリカ軍は、人員不足を補い、グローバルな戦争に対応するために、移民を重要な人材供給源として位置づけている。Molly F. McIntosh and Seema Sayala, Non-Citizens in the Enlisted U.S. Military, CRM D0025768.A2/Final, November 2011.
(7) アメリカでは、陸軍、海軍、空軍、海兵隊および州兵、予備役兵も一体的に運用している。州兵については、公式ホームページhttp://nationalguard.mil/(2014年9月21日)参照。
(8) Joshua Key and Lawrence Hill, The Deserter's Tale: The Story of an Ordinary Soldier Who Walked Away from the War in Iraq (New York: Atlantic Monthly Press, 2007)〔ジョシュア・キー『イラク米軍脱走兵、真実の告発』井手真也訳、合同出版、2008年〕.トレーラーハウスに住み、低賃金労働にしか就くことのできない若者が、「生きる手段」として入隊する様子を証言している。Jürgen Todenhöfer, Andy und Marwa. Zwei Kinder und der Krieg (München: Bertelsmann Verlag, 2005)〔ユルゲン・トーデンヘーファー『アンディとマルワ―イラク戦争を生きた二人の子ども』平野卿子訳、岩波書店、2008年〕。2001年6月に入隊し、イラクで03年4月に18歳で戦死した若者は、重量挙げ用のグローブがほしくて、海兵隊の資料を請求したのだった。
(9) 経済的な貧困から、軍に登録する人々については、堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波書店、2008年)参照。堤が指摘するように、民間軍事会社によって派遣されるアメリカ人も少なくない。物資の輸送などの業務を請け負う軍事会社で働いているのも、貧困にあえぐ人々である。民間人は、軍人ではないとされるが、劣悪で危険な環境で勤務している。彼らは、帰還兵にも、戦死者にも数えられない。彼らのように、復員軍人省が提供するサービスからも排除される人々の存在も忘れてはならない。
(10) Amy E. Street, "A New Generation of Women Veterans: Stressors Faced by Women Deployed to Iraq and Afghanistan," Clinical Psychology Review, vol. 29 (2009), p. 686.
(11) Sean C. Sheppard, Jennifer Weil Malatras, and Allen C. Israel, "The Impact of Deployment on U. S. Military Families," American Psychologist, vol. 65, no. 6 (September 2010), p. 600.

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