陸軍101空挺師団機関銃手としてイラクのカルバラにいた21歳のニック・ボッグスは、10歳にも満たない子どもに向けて発砲し殺害した。この子どもは、 アメリカ軍との激しい戦闘によって路上に残された携行式ロケット砲(Rocket Propelled Grenade: RPG)を回収しようとしたのだった(16)。
子どもがおとりや自爆攻撃に使われることもあり、笑顔で近づいてくる子どもであっても、アメリカ軍兵士にとっては脅威となる。
通信手段の普及によって兵士は、遠く離れた家族と容易に連絡を取れるようになった。そのことが戦場の兵士にとって精神的な負担を強めている側面がある。銃撃戦や道路脇爆弾におびえながらの巡回警備、人を殺傷するような暴力行使は、兵士にとって日常の任務の一環である。
しかし、それは彼ら自身の「日常」ではない。彼らにとっては、派兵されている期間が「非日常」であり、彼らには戻るべき平穏な「日常」がある。
その「日常」を象徴するのが家族である。インターネットや衛星電話などによって、戦場という「非日常」の世界に、アメリカに残してきたはずの「日常」が入り込む。
兵士自身も、愛する人の子や親、パートナーである。自らの家族と話をした数時間後に、現地に住む自分たちと同じような親子を殺害してしまうこともある。
また、アメリカにいる子どもやパートナーが何か問題で悩んでいたり、困っていることを知っても、派兵されている兵士が彼らを助けることは難しい。親あるいはパートナーとして寄り添うことができない現実も、兵士にとってはストレスとなる。
【以下注】
(12) Charles W. Hoge, Carl A. Castro, Stephen C. Messer, Dennis McGurk, Dave I. Cotting, and Robert L. Koffman, "Combat Duty in Iraq and Afghanistan, Mental Health Problems, and Barriers to Care," New England Journal of Medicine, no. 351 (2004), pp. 13-22.
(13) Peter W. Singer, "Fighting Child Soldiers," Military Review (May-June, 2003), p. 26.
(14) バクダッドにある米軍戦闘支援病院へ運び込まれた子どもたちのうち、8歳以下の子どもで敵戦闘員と判断されたケースはなかったが、9―17歳では66名中10名(約15パーセント)が敵戦闘員とみなされた。Renee I. Matos, John B. Holcomb, Charles Callahan, and Philip C. Spinella, "Increased Mortality Rates of Young Children With Traumatic Injuries at a US Army Combat Support Hospital in Baghdad, Iraq, 2004," Pediatrics, vol. 122, no. 5 (November 2008), pp. 961-962.
(15) Child Soldiers: Implications for U. S. Forces (Seminar Report, November 2002), Center for Emerging Threats and Opportunities Marine Corps Warfighting Laboratory, p. 7.
(16) Matthew Cox, "War Even Uglier When a Child Is the Enemy, A Boy Darts for a Weapon, and a Young Soldier Must Make a Wrenching Decision", " USA Today, April 8, 2003.