米軍における現役女性兵士の割合は、ヴェトナム戦争時は2%、湾岸戦争時は11%、そして近年の「対テロ戦争」では15%に増加。アフガニスタン、イラク にも多数の女性が派兵されている。彼女たちは戦場で多くの性的トラウマを感じ、故郷に残した子供のことで強いストレスを強いられる。京都女子大の市川ひろ み教授による寄稿の三回目。(整理/石丸次郎)
(承前)女性兵士は、さらに厳しい状況に直面する。女性兵士は、戦闘を支援する幅広い職種で任務にあたっており、2009年のアフガニスタンにおける女性 兵士の死亡の75パーセントは道路脇爆弾などの爆発物によるものであった。イラクに派遣された女性兵士の約4分の3が、少なくとも一回以上の戦闘を経験し ている。
2010年2月までの、アフガニスタンでの973名の死者のうち20名(2.1パーセント)が女性、イラクでは4365名の死者のうち104名 (2.4パーセント)が女性だった(17)。さらに、彼女たちは、「敵」から攻撃される危険だけでなく、軍隊内で同僚男性から「攻撃」される危険にも晒さ れる。
復員軍人省(Department of Veterans Affairs)は、軍隊内での性的な攻撃、繰り返し脅威を与える性的な嫌がらせを、「軍隊内の性的トラウマ(military sexual trauma)」と規定して警鐘を鳴らしている。イラクおよびアフガニスタンへの派遣中に、20―40パーセントの女性が性的トラウマを受けたとされる (18)。
女性兵士にとっては、命がけの戦場でお互いに守りあうはずの同僚がもっとも脅威を感じるべき存在ともなっている。このことは、派遣期間中、女性兵士が安心できる場がきわめて限定されることを意味する。
女性は、家庭内で子育てや料理などの家事について重い責任を負っている場合が多い。そのため、女性が派兵されると、これらの家事と責任は、パートナーや他の家族、友人などが担わねばならない。そのことが、派兵される女性兵士のストレスも増大させる。
とりわけ、子どもをもつ女性兵士にとっては、派兵される期間の子どもの世話を誰に頼むのかという問題は深刻である。というのも、彼女らは、若く、独 身であるかパートナーも軍関係者の場合が多く、社会的地位は低いからである。女性兵士の離婚率は上昇しており、3万人以上のシングル・マザーが、「対テロ 戦争」に派兵された。
彼女らの子どもたちの多くは、親戚の家などに引っ越さねばならない(19)。州兵の場合、基地内には住んでおらず、同じような環境に置かれた仲間と情報交換することもできない。軍について相談できる人も身近にいない場合が多く、精神的な負担は大きい(20)。
【以下注】
(17) Anne Leland and Mari-Jana "M-J" Oboroceanu, American War and Military Operations Casualties: Lists and Statistics (Congressional Research Service, February 26), 2010, pp. 17-18.
(18) Ursula A. Kelly Kelly Skelton, Meghna Patel, and Bekh Bradley, "More Than Military Sexual Trauma: Interpersonal Violence, PTSD, and Mental Health in Women Veterans," Research in Nursing & Health, DOI: 10.1002/nur.20453, July 2011, p. 1.
(19) Kristin M. Mattocks, S. G. Haskell, E. E. Krebs, A. C. Justice, E. M. Yan, and C. Brandt, "Women at War: Understanding How Women Veterans Cope with Combat and Military Sexual Trauma," Social Science & Medicine, vol. 74 (2012), p. 538.
(20) Sheppard, Malatras, and Israel, "The Impact of Deployment on U.S. Military Families," p. 603.