「敵」にも思い寄せる反戦運動
これらの運動に共通するのは、「敵」であるイラクやアフガニスタンの人々にも思いを寄せている点である。「大義のない戦争で傷つき、愛する人を失う」という共通点から、彼らは同じ境遇にある人々に連帯感を抱く。
家族を大切に思う気持ち、かけがえのない存在を失う痛みは、敵味方を問わない。彼らは、イラクを訪れ、家族を失った何人ものイラク人と語りあっている。
これらの帰還兵、家族による平和運動とは、その理念、手法、会員数などにおいて対照的なのが、「アメリカイラク・アフガニスタン帰還兵の会 (Iraq and Afghanistan Veterans of America: IAVA)」である。IVAWは、イラク帰還兵であるポール・リークホフによって2004年に設立された。
彼は、2004年にイラクから帰国したとき、帰還兵が悲惨な状況に置かれていることに衝撃を受け、この状況を変えることを目指して活動を始めた。メ ディアや金融・製造分野の大企業や基金から寄付金を集め、帰還兵の福利厚生に充てている。帰還兵同士が自由に語り、仲間とつながることができるようにソー シャル・ネットワークも開設している。
2011年には、14万人の会員を有するまでに急成長した。IVAWは、連邦議員らに対して活発なロビー活動を行ない、帰還兵の利益となる立法に関 わっており、主要メディアでも注目されている(57)。2011年の年次報告書では、寄付者は金額ごとにリスト化され、企業にとってIVAWは「よい投資 先」であることが強調される。
同報告書では、イラクおよびアフガニスタンで駐留アメリカ軍司令官を務めたアメリカ中央情報局(CIA)のデイヴィッド・ペトレイアス長官(当時)と誇らしげに握手する会員の姿を紹介している(58)。
おわりに
終わりの見えない「対テロ戦争」は、貧困や不安定な生活から抜け出そうする人々に、アメリカ軍への門戸を大きく開くことになった。多くの人々が、家族を支えることのできる生活をしたいというささやかな夢を抱いてアメリカ軍に「志願」した。
しかし、入隊した彼らが、その夢を実現することは容易ではない。イラクやアフガニスタンに派兵された多くの若者が、戦場で心身ともに傷を負い、帰還後はさらなる貧困へと追いやられている。
兵士らの心身の傷は、帰還した後も長期間にわたって、自分自身のみならず家族をも苛む。
少数ではあるが、軍隊での訓練や戦場での経験を活かして活動している人たちもいる。彼らは、高等教育を受け「自由意思」で入隊し、帰還後は軍隊で身につけたという「常に(自分よりも)大きな何かのために」という理念に基づき働こうとしている。
先述のリークホフも、そのひとりだ。障害のある帰還兵のために家を建てたり、災害救助を行なったり、さらには、ケニアのスラムで子どもを支援するなど、「人々を直接的・実体的に助ける」活動を展開している(59)。
これらの活動は、帰還兵である彼らにとって「治療」のようなプロセスだと感じられている。彼らは、「治療」の必要性は感じているが、「対テロ戦争」の是非は問わない。