R:甲状腺がんは放射性ヨウ素を吸い込むことによってかかる確率が非常に高まるということです。半減期は8日ですね。

小出:そうです。

R:次に甲状腺がんを引き起こすセシウム137というものは、半減期が30年。なので福島第一原発事故で放出されたセシウムはまだ残っているわけですよね。

小出:そうです。大地そのものに汚染が残っているのです。

R:それにもかかわらず、政府は2017年3月までに、双葉町の駅前等を含め、避難指示を解除すると言っています。これについてどうお考えですか。

小出:当然、大変危険なことだと思います。1年間に1ミリシーベルトを超えて人工的な被曝をさせてはいけないと いう法律があったのです。しかし、現在、日本政府は、1年間に20ミリシーベルトまでの被曝なら我慢しろと、その程度の所には、もう住民に帰れと、どっち にしろ補償は打ち切ると言っているのです。

1年間に20ミリシーベルトというのは、私のような放射線を取り扱って給料をもらっているという非常に特殊な大人に対して、初めて認められた被曝の 基準なのであって、そんなものを一般の人たちに許す、特に子どもたちに許すなんてことは、到底やってはいけないことだと私は思います。

R:1ミリシーベルトどころか20ミリシーベルトを超えるような場所の避難指示を解除するというのは、まさに住民を危険な所に戻すということですよね。

小出:そうですね。私は、今年の3月末まで京都大学原子炉実験所という非常に特殊な職場で働いてきました。時に は、放射能を取り扱う場所に入ります。それは、放射線管理区域というのですが、普通の方は入れない、私のような特殊な人間だけが入れる場所です。その場所 であっても、1時間あたり20マイクロシーベルトを超えるような場所は、高線量区域として立ち入りが制限されるというような場所なのです。でも、双葉町と かそういう所に行けば、もっともっと汚染の高い所があるわけで、私のような人間すら近寄れないというような汚染が残っているのです。そんな所に人々を帰す なんてことは、決してやってはいけません。

R:ちなみに、セシウムというのは筋肉に溜まるようですが、例えば心臓の筋肉にもし入り込めば、心臓発作ということも考えられるということでしょうか。

小出:当然です。被曝というのは、どんなことでも引き起こしうると私は思っています。広島、長崎といった原爆被 爆者の方々をもうかれこれ70年近く調査してきたのですが、当初は白血病が増えるということが分かりました。次に、様々ながんが増えるということが分かり ました。今度は循環器系、いわゆる心臓まわりの病気などが多くなっているということがわかってきているという段階なのです。恐らく、セシウムで全身が被曝 をするというようなことになれば、様々な形でまた病気が出てくるのだろうと思います。

R:この事故で故郷を失い、早く帰りたいと願っている人は当然多いと思うのですが、科学的にしっかりと安全が確認されてからでないと、避難指示を解除すべきではないですよね。

小出:そうです。住民の方々は、当然、自分の故郷に帰りたいと思っていると思います。そして、恐怖を抱いたまま では生活ができませんから、何としても汚染のことを忘れたいと、どうしても思ってしまうわけです。そういう時には、むしろきちんとした科学的な根拠に基づ いて、住民に伝えなければいけないはずなのですが、今の政府は逆に、「もう忘れてしまえ」「安全だ」という方向でやってきているわけです。大変困った政府 だと私は思います。

※小出さんの音声をラジオフォーラムでお聞きになれます。

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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