R:事故から4年以上が経って、ようやくベントは失敗していた可能性が高いという報告がなされたわけですが、東京電力はどのような検証をしていたのでしょうか。

小出:ベントという作業は、特殊な配管を使うわけですが、その配管にはバルブが付いています。そして、そのバル ブを開いて、格納容器の中にある放射能で汚れたガスを外に出すわけですけれども、バルブを間違えて開いてしまった場合に、ガスが外に出てしまうという可能 性もあるわけです。それを防止するために、バルブを開いた先にラプチャーディスク(破裂板)という薄い金属の板が挟んであるのです。そして、特別放出しな くてもいいような時に、誤操作によってバルブが開いてしまった場合には、そのラプチャーディスクが破れることもなく、放射能を格納容器の中に閉じ込め続け るという考え方でした。

でも今回の場合には、意図的にとにかくバルブを開いて、高圧になっている格納容器内のガスを外に捨てようとしたわけですから、自動的にラプチャー ディスクと呼んでいる金属の板も破れなければいけなかったのです。でも、どうもそうではなかったようだということになりました。東京電力が、ラプチャー ディスクが設置してある周辺の配管の放射線量を計りましたところ、その周辺の線量が低い、つまり放射性物質がそこまで到達していないという結論が出まし た。つまり、その前にあるバルブの一部が開かなかった可能性が高く、結局、ベントはできていなかったのだという報告になったのです。

R:ベントが失敗していたならば、2号機の格納容器が大破するという最悪の事態も考えられた訳ですが、実際にはどの程度の被害が出ていたのでしょうか。

小出:格納容器が耐えられる圧力には限度があるわけですから、どうしようもなく格納容器が壊れてしまい、あとは 打つ手もなく、内部の放射性物質が外に出てきてしまった可能性があります。実際に、かなりそれに近いかたちになって、2号機の場合には1号機、3号機に比 べてもはるかに大量の放射性物質を環境に撒き散らしてしまうということになりました。でも、格納容器の破壊された場所というものが、まだきちんと解明され ていないのです。破壊された場所によっては、もっと大量の放射性物質が環境に放出されるということもあり得たと思います。

R:今回、ベントの失敗というのがようやく分かったわけなのですが、福島第一原発の事故では、まだまだ解明されてない謎がたくさんあるようですね。

小出:もう山ほど解明されていないことがあります。今、東京電力が未確認・未解明事項というものを列挙して、調 査・検討ということをやっているわけですけれども、東京電力が挙げた未確認・未解明事項だけでも52件もあります。今回報告されたのはそのうちたったの4 件でして、これからもまだまだ解明しなければいけないことが残っていますし、最終的な解明というのは、何十年も先にならなければできないだろうと思いま す。
福島第一原発事故の全容解明はまだまだ先の話だ。解明されていないということは、その対策に着手することも出来ないということである。こうした中で国や電 力会社が設けた新たな安全基準というものは、一体どれほどの意味を持つものなのか。原発の再稼働や海外輸出は道義的に許されるものなのか。今一度問い直し たい。

※小出さんの音声をラジオフォーラムでお聞きになれます。

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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