安倍内閣は6月、福島第一原発の廃炉工程表(ロードマップ)の改訂を決定した。これは2013年6月以来、2年ぶり、2度目の改訂となる。今回の改訂では、使用済み核燃料プールからの燃料棒の取り出しを最大で3年程度遅らせること等が盛り込まれている。この改訂工程表の見通しについて、元京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。
◆所在すら分からない核燃料
ラジオフォーラム(以下R):まず廃炉工程表とはどのようなものなのか改めて教えていただけますか。
小出: 2011年3月11日に福島第一原子力発電所が巨大な地震と津波に襲われて、当日運転中だった1号機、2号機、3 号機は炉心が溶け落ちてしまい、爆発する事故になりました。その日、4号機は定期検査で運転をしていなかったのですが、その4号機でもなぜか巨大な爆発が起きてしまいました。4号機では使用済み核燃料を全て格納していた使用済み燃料プールが、半分壊れた建屋の中に宙吊りになってしまうという状態になったのでした。
大変危険というか、どうしていいのか分からないような事故が起きて、進行していたわけですが、とにかくなんとか放射性物質を飛散させないようにしなければいけませんでした。そのため、今後どのような作業が必要になるのかなどを決めた廃炉工程表というのが、2011年の暮れに策定されました。
熔け落ちてしまった炉心をどうするのか。1号機から4号機まで全てに使用済み燃料プールがあって、その底に大量の使用済み燃料が眠っていたのですが、その使用済み燃料をどのように取り出すことができるのか。あるいは、放射能の汚染水がどんどん溢れてきてしまっているわけですが、それをどのように閉じ込めることができるのか。海に流さないで済むのか。そのためには何が必要なのか。というようなことを一応、 策定した工程表が2011年末にできたのです。
ただ、私から見ると、あまりにも楽観的な見通しの上にその工程表が作られていて、こんなものはできっこない、いずれ改訂される、と思っていました。そして2013年6月に大幅に改訂されたのです。ところが、それすらもまた実行することができないということで、今年6月に2度目の大幅な改訂というものが行われました。
R:楽観的すぎる工程表とのことですが、これまでに何ができていて、何がまだできていないのか、一度整理していただけますか。
小出:基本的には、使用済み燃料プールの底に使用済み燃料が大量に残っているのです。なかでも4号機には特に大量の使用済み燃料が残っていました。4号機は爆発でそのプールが宙吊りになってしまい、とにかく一刻も早く取り出しを行わなければいけないということで、一昨年(2013年)11月から取り出し作業を始めまして、昨年(2014年)11月まで丸1年をかけて、ようやく使用済み燃料プールにあった燃料を取り出したのです。
しかし、1号機、2号機、3号機の方は、4号機に比べて放射能の汚染がはるかに高く、未だにプールに近づくことすらできない。でも、そのプールの底からとにかく燃料を取り出さなければいけないということで、方策を考え、一応、工程表というものを作ったわけです。
ところが、あまりにも楽観的な見通しのもとに作られていたため、到底その通りにはできないということになりました。3号機では、2015年上期には行うと予定されていたものが2年遅れることになりました。1、2号機の方も3年ほど遅れて作業を始めるというようなことになってしまいました。恐らく、それもできないだろうと私は思います。
それから、もうひとつの問題は、熔け落ちた炉心をどうするのかということです。未だに熔け落ちた炉心がどこにどのような状態で存在しているのかすら全く分かりません。人間が行けば、即死してしまうような場所です。そのため、代わりにロボットを行かせようとしてきたのですが、ロボットというものは放射線に大変弱いのです。そのため送り込んだロボットも皆、帰ってくることができないという状況で、未だに熔け落ちた炉心の所在も分からないままです。国や東京電力は、いつの時点かで、その熔け落ちた炉心を外部に掴み出すという工程表を作ったのです。
R:どこにあるかも分からないのに、掴み出すという工程表を作ったのですね。
小出:私は、もうとうの昔から、そんな掴み出すなんていう作業はできるはずがなく、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所と同じように、石棺という巨大な容器で覆うしかないんだと言ってきました。国の方も、ようやくにして、掴み出すということが大変難しいということを認め、工程表を書き換えて、「とにかくもっと遅くなります」と言うようになりました。さらに、これまでのやり方はダメかもしれないので、別のやり方も考えますということになりました。
R:そうは言っても、現場の労働者の方々の健康問題もありますし、スピードというのは大事なことだと思うのですけど。
小出:もちろんスピードは重視しなければいけません。いつまでもズルズルと手をこまねいていれば、放射能がどんどん外に出ていってしまうことになるわけですから、力をそこに集めて素早くやらなければいけないと思います。ただし、相手が放射能ですので、やればやるだけ被曝をしてしまいますので、労働者の被曝を少なくするということは当然、考えなければいけません。ですから、本来であれば、スピードを重視しつつ、慎重な工程表を作らなければいけないのですけれども、東京電力と国がこれまで考えてきた工程表というのは、楽観的な見通しに立って作られてきました。そのため、その工程表が次々と改訂されてきたということになったわけです。
もっと国も東京電力も事態の深刻さを認識しなければいけませんし、工程表というものは本来、厳しい状況を考えた上で作らなければいけないと思います。今回改訂された工程表も結局、実現は難しいということになり、また何年かすれば改訂されて、事故収束までさらに時間がかかるということに必ずなるだろうと私は思っています。
※「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ