◆戦闘員が女性数千を「戦利品・奴隷」として分配
武装組織「イスラム国」(IS)が、イラク北西部シンジャル一帯の町や村を一斉に攻撃したのは、2014年8月のことだった。住民のほとんどは少数宗教ヤズディ教徒。住民殺りくが始まり、十数万が家を捨て、安全なクルド人自治区を目指した。
幹線道をふさがれた5万人は、近くの山に逃げ込むしかなかった。草木のない8月の岩山の気温は50度を超え、脱水症状と飢えで数百人の高齢者や子どもが次々と命を落とした。ヤズディ教は、クルド系住人からなる土着信仰で、イラク北部に多い。孔雀(くじゃく)を天使と崇(あが)めるが、イスラム教徒の一部からは「邪教」とみなされ、これまで何度も武装組織の攻撃にさらされてきた。
襲撃事件が起きた翌月、私はイラクに向かった。クルド自治区のザホーは、脱出したヤズディ住民の避難先のひとつとなっていた。国連が緊急に配布したテントだけでは足りず、建設中の建物など、いたるところに避難民が身を寄せていた。
その中に、ISに拉致され、脱出してきたばかりの姉妹がいた。姉マハヤさん(30)と妹ブシュラさん(24)の村は昨年8月、ISに襲撃された。この村だけで200人の女性が拉致されている。マハヤさんは妊娠して臨月を迎え、ブシュラさんは1歳半の息子を連れていた。移送されたのは隣国シリ アの学校の校舎。所持品は取り上げられたが、姉妹は携帯電話だけはなんとか隠した。妊娠していたマハヤさんは、そこで産気づき、まわりの女性たちに助けて もらい教室の片隅で女児を産んだ。
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