温暖化は数年前までは異論も多く、また各国のエネルギー政策と密接に絡んでいることから産業界の猛反発もあり、その結果、温暖化そのものを否定する意見も 見られた。その有力な温暖化否定論者が米国の、特に保守系政治家と産業界だった。しかしNOAA=米海洋大気局が今年の世界の平均気温について観測史上最 も高いものになるとの予測を発表するなど、米国の対応はここ数年で大きく変わっている。
そこには、温暖化がもたらす被害が、従来言われてきたような北極の氷が溶け出して海面上昇が起こり南太平洋の島々が水没するといった環境問題としての側面だけでなくなっているという現状がある。
スタンフォード大学のコルスタッド教授は、「長期的に温暖化をもたらしている気候変動によって、作物の不作が起きており、それによって生じる食糧不 足がもともと政情が不安定な地域で内戦をひき起こし難民を生み、強い不満が過激思想とあいまってテロが起きる。つまり、温暖化の問題とは国家の安全保障の 問題にまで広がっているのです」と話している。
実はテロに見舞われたフランスで、その数日後にフランス政府がCOP21の予定通りの開催を発表したのは、こうした背景があったからだと言われてい る。コルスタッド教授は、欧米のメディアの取材に対して、今回のパリでのテロそのものがCOP21の妨害を狙ったものだった可能性があると指摘している。
計画を首謀したと「イスラム国」は石油の密輸を資金源としており、各国が石油などの化石燃料に頼らない低炭素社会の構築で合意されることは、即、資金源の減少を意味するからだという。
こうした世界の流れの中で、温暖化の防止にも積極的に取り組まず、「テロに屈しない」と軍備力の増強にのみ力を入れる政策とは、国際社会にはどう映 るのだろうか。再び前述のUNFCCCの担当者に尋ねると、「現象にのみ囚われて根本的な対策を考えられない、まことに失礼ですが、子どもの議論ですね」 と切り捨てた。