◆廃炉を担える人材の育成を
R:やはり国は危機感を覚えたのでしょう。文部科学省は2014年に3大学に関連学科・定員100人を設置し、大学院にも9専攻210人を増やしています。文部科学省の狙いというのはどこにあるのでしょうか。
小出:要するに、このままでは原子力が潰れてしまう。日本は原子力をこれからも進めようとしているわけですか ら、「まだまだ原子力には夢があるんだぞ」 ということを日本の国として何としても言い続けなければいけない。そのためには、大学の学生も維持しなければいけないということで、文部科学省がお金をば らまいて、なんとか維持しようとしているのです。
R:小出さんがお考えになる原子力の人材、一番必要なのはどういう分野だとお考えですか。
小出:もともと日本で原子力が華々しく打ち出されていた時には、要するに原子力発電を進める技術者・科学者を養 成しようとしました。例えば、原子炉物理学であるとか原子炉工学であるとか核燃料工学であるとか、とにかく原子力を推進するための学問をどんどん進めよう としたのです。私はもうそんな学問は一切止めるべきだと思っています。
R:一切止めるべきとはどういうことでしょうか。
小出:原子力がここまで巨大な危険を抱えているということがわかったわけですから、一刻も早く原子力から足を洗うという方向に、学問も向かわなければいけません。原子力を進めるための学問はもう止めるべきだと思います。
ただし、福島の原子力発電所の事故をなんとか収束させて、廃炉に持って行かなければいけませんし、福島以外の原子力発電所も膨大な放射能の塊になっ てしまっていますので、それらも何とか廃炉にしなければいけない。そして、これまでに生み出してしまった核分裂生成物などの核のゴミ、それも何とかしなけ ればいけないという課題が残っています。
R:核のゴミなどを処理するための学問が必要だということですね。
小出:はい。そういうことに関しては、とにかく専門家を養成しなければいけない。そういう学問をこれからもきちんと残さなければいけないと、私は思います。
R:原子力を推進するための研究と、廃炉や核のゴミの処理をやる分野というのは、やはり研究機関の中でもだいぶ違う分野、違う研究職だと考えていいのですか。
小出:はい。いわゆる原子炉というものを設計して動かしてという分野の学問と、生み出してしまった核のゴミの始末に関する学問は、全く違う学問です。
R:では、今から求められるのは、このなくすための研究者、なくすための勉強をするための学科や専攻の設置ということなのでしょうか。
小出:はい。私はそう思いますし、核化学の知識であるとか、放射線を測定するという、これまでもやってきた基礎的な学問研究はきちんと残して組み合わせて、核のゴミの始末に役立てるような学問をこれから作っていかなければいけないということです。
R:それを政府が方針としてきちんと打ち出さなきゃいけないわけですよね。
小出:本当はそうなのですが、残念ながら今の自民党政府は、これからも原子力をどんどんやるというようなことを言っているわけで、核のゴミの後始末よりは、むしろまだまだ原子力を続けたいのだという、そんな姿勢になってしまっているのです。