◆人権救済申し立てにも会社側は改善の努力をせず
大阪府岸和田市に本社を置く大手住宅メーカー「フジ住宅株式会社」で働く40代の在日コリアン3世の女性が、社内でヘイトスピーチ(憎悪表現)が記された 文書を職場で繰り返し配布されるなどして精神的苦痛をうけたとして、会社と同社会長を相手取り慰謝料など3300万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭 弁論が11月12日、大阪地裁堺支部で開かれた。
原告は2002年に入社したパート社員。訴状などによると同社では数年前からほぼ毎日、民族差別的な内容や、いわゆる「自虐史観」を攻撃する内容を 含んだ新聞や雑誌のコピー、「嫌韓本」「嫌中本」などが配布されるようになった。社員に感想を書くよう促しており、配布物には「(韓国人は)嘘が蔓延して いる民族」などと書かれた感想文のコピーも含まれている。
また「新しい歴史教科書をつくる会」系の教科書採択を推進するため、住所地のある自治体の市長や教育長に手紙を書くことや、教科書展示会の会場でアンケートを記入することを促していたという。
原告は今年1月、会社に対し改善を申し入れ、3月には大阪弁護士会に人権救済を申し立てた。しかし会社側は8月には原告に対し退職を迫るなどしたため、原告は同月末、提訴に踏み切った。
初弁論で原告は意見陳述を行い、「業務と関係のない資料や促される様々な行為は、全従業員に対し、会長がよしとする思想への同調称賛を求めるものと 感じた。会長と異なる考えを持つ人や私のような存在を排除し、蔑み、敵意を表明させることにつながっていると思う」「韓国・中国・在日を含め、会長の意に 沿わない人や団体にむけられた憎悪の表明にさらされることが増えるにつけ、促す側だけでなく、結果的に同様の意見表明に至らざるを得なかった方々にも複雑 な感情を持たされてしまい、その葛藤も精神的負担となっている」などと訴えた。
社内ではいまも資料の配布が続き、なかには原告を批判する内容の文書まであるという。閉廷後の報告会でコリアNGOセンター代表理事の郭辰雄さんは 「前面に立って裁判に訴えなければならないのが在日のコリアン、女性という立場の弱い人。なぜ正社員で、立場のある人が『それはあきませんで』と声をあげ ないのか。それこそが一番問題だと思う。この裁判は、傷ついた在日の被害回復だけではなく、日本の人たちの表現の自由、人間としての尊厳を守るための闘い でもある」と話し、幅広い支援を訴えた。【新聞うずみ火 栗原佳子】