最も多く発生した問題は、金日成と金正日の取り違えだった。朝鮮では金日成の指示は「教示」、金正日の指示は「マルスム(お言葉)」と厳格に区分され、原稿にもそう明記しなければならないのだが、「金日成のマルスム」のように、こんがらがってしまう場合があった。

こうなると、自己批判を含め、徹底的な反省を求められる。同僚同士での批判なら軽いもので済むこともあろうが、検閲の席には上級機関から派遣されてきた人物が同席するため、批判の強度はとても強いものだった。もっとも、これくらいでクビになったり、農村や労働鍛錬隊送りになったりすることはなかったが。

しかし読者は不思議に思うかもしれない。あれだけたくさんの検閲を繰り返したのに、なぜ記事に欠陥があるのか? それは検閲をする人間たちに「俺が適当に見ても、誰か別の人間がきちんと見るだろう」という共通した心理があるからに他ならない。

実際に問題が発見された場合、検閲員たちは皆どこかに隠れてしまい、編集員と記者だけが処罰される場合がほとんどである。この2人は最も弱い立場だからである。(続く)

【以下注】
5 放送の目的と使命をまとめた書籍には『放送話術論』、『放送記者論』、『出版報道理論』などがある。いずれにも故金日成主席、故金正日総書記のテーゼが記載されており、放送の指針として明記されている。
6 党と国家の最高指導者である金日成、金正日、金正恩が、直接執筆したとされる論文や書籍を指す。
7 正確には「朝鮮中央第3放送」という有線ラジオ。党の指示を伝達・宣伝するために北朝鮮の全家庭に設置されているが、電力不足や施設の補修不備のため、まともに稼動していないという報告が相次いでいる。
※当記事は、『北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」第7号』に掲載されています。

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