金正恩政権が、中国との国境沿線に住む住民が韓国と連携することを徹底遮断するために、10月に入ってから取締りを大々的に強化していることが分かった。韓国入りした脱北者は年々増え累計3万人に及ぶ。その分北朝鮮に残る家族、親族の世帯数も膨大になっており、密かに持ち込んだ中国の携帯電話などで秘密裏に連絡を取ったり送金したりするなど、南北朝鮮間の連携パイプが年々肥大、北朝鮮政権は危機感を募らせていた。北朝鮮内部に住むアジアプレスの取材協力者が調査した。(カン・チウォン/石丸次郎)
10月中旬、北部の両江道恵山(ヘサン)市で、秘密警察の国家保衛部による国境秩序維持を図る特別検閲が実施された。
ところが、あろうことかこの期間に、ひとりの保衛指導員(末端の保衛部員)が、賄賂を取って密輸業者3人を中国に越境させ、現場で逮捕される事件があったという。取材協力者は次のように証言する。
「保衛指導員が金欲しさに密輸をほう助する時は、自分は現場に出ずに、国境警備兵に越境の手助けを依頼するのが普通だ。ところがその保衛指導員は、国境の川・鴨緑江に直接出て来て密輸屋を中国に送ろうとして現場で捕まった。彼は大変重い処罰を受けることになるだろう」
この事件の余波で、現在鴨緑江の上流域では、中国への一時的な越境、密輸、中国の携帯電話の不法使用に対するかつてないほど厳重な取締りが始まったという。
脱北者家族への圧迫強まる
10月以降、家族の中に脱北した者がいる世帯への監視と圧迫が強まっている。恵山市の場合、保衛部の幹部が直接そうした世帯を訪ねているとして、取材協力者は次のように語った。
「恵山市の保衛部副部長が、韓国に逃げた者のいる家を訪れ、『不法の中国の携帯電話を持っているなら自ら申し出よ。また韓国から不法送金を受けたことがあるなら、その金を保衛部に差し出し、不法送金を手伝うブローカーを密告しろ。そうすれば罪は許す』と脅している」
と言う。
しかし、韓国にいる家族と連絡を取り送金も手伝ってくれる有難いブローカーを密告する者などいるものかと、人々は保衛部の密告奨励を陰で笑っているという。
保衛部の副部長は、「脱北者を持つ世帯を100%訪問して、密告させよ」と指示しており、スパイを一般家庭に送り込んで、わざと韓国に電話をするように誘導して摘発するケースも増えているという。
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