冷戦後の戦争の特質
1995年から2005年までの10年間に、200万人の子ども(18歳未満)(2)が武力紛争によって命を奪われ、さらに600万人が重度の傷害を負った。2003年から2005年の間には、1,150万人が国内避難民となり、240万人が難民となった(3)。
子どもに大きな犠牲を強いる冷戦後の戦争の特質は、1戦争が子どもの生活に入り込む遍在性、2武器の蔓延、3戦争を規制する諸法が及ばない暴力(4)として捉えることができる。
冷戦後の戦争においては、正当な武器保持者としての戦闘員と非戦闘員、軍人や警官と犯罪者、大人と子どもといった区別は取り払われ、日常生活そのものが攻撃の対象となる。
人々の間に「恐怖と憎悪」を生み出すために、凄惨な暴力行為の多くが市民に対して向けられる(5)。人々が住む地域に、地雷を敷設し、家屋、病院、市場や水源地などが攻撃される。
人為的に飢餓を引き起こしたり、包囲戦を行うこともある。生活の糧を奪われた人々は、餓死するか、移住を余儀なくされる。恐怖や飢餓に駆り立てられ て、戦闘への参加を強いられている人も多く存在する。たとえ、ある人が暴力行為に加わりたくないと思っても、隣人たちから「協力しなければ殺す」と脅され るような状況では、中立的な傍観者でいることは不可能である。
また、冷戦時代の激しい東西軍事対立によって大量に製造された兵器が、冷戦後、余剰兵器として安価に供給され、紛争地域に大量の武器が蔓延するようになった。
主に使用される武器は、ライフル銃などの小火器である(6)。紛争による直接的な死亡のうち60-90%は小火器によるという報告もある。これらの 小火器は、大型の武器と異なり汎用性があり、輸送もしやすい。財力がなく、組織化されていない武装勢力であっても、入手が可能である。
旧ソ連が開発したカラシニコフ銃(AK-47)が最も一般的に使用されているライフル銃で、手入れも手軽で、厳しい訓練を必要とするような熟練技術は必要ない(7)。大人と比べて体格の小さな子どもも、十分に使用できる。
冷戦後の戦争では正規軍のみならず、治安部隊、反政府武装集団、民兵、住民など多様な人々が武力を行使する。アフガニスタンやイラクにおいては、多 くの業務を民間軍事会社(PMC)・民間警備会社(PSC)が請け負った(8)。軍の業務に携わっているにもかかわらず、軍事会社の社員は「民間人」であ り、戦時国際法にも米軍の交戦規程にも拘束されないと主張される。
紛争地の子どもにとっては、戦争が身の回りのどこにでもあり、自分も含めた身近な人々が戦争の当事者となり、相手を対等な存在とみなさない法外で苛烈な暴力に晒されることになる。(続く)
※本稿の初出は2014年6月発行の「京女法学」第6号に収録された、市川ひろみさんの論考『冷戦後の戦争と子どもの犠牲』です。