紛争発生で治安が悪化すると少年少女への性暴力が急増する。親と離別すると途端に子供は危険にさらされる。治安の悪化が子供を庇護する仕組みを失わせてしまうのだ。京都女子大の市川ひろみ教授による報告。(整理/石丸次郎)

「イスラム国」(IS)支配地域にはすでに少年戦士訓練所が設置されている。写真は銃を手に「オバマよ、よく聞け。我々は戦う」とメッセージを言わされる子ども(シリア・IS映像)
「イスラム国」(IS)支配地域にはすでに少年戦士訓練所が設置されている。写真は銃を手に「オバマよ、よく聞け。我々は戦う」とメッセージを言わされる子ども(シリア・IS映像)

 

治安の悪化が、子どもたちにもたらす被害も看過できない。戦争によって、国家の秩序を維持する機能が低下し、武器が広く社会に蔓延すると、犯罪行為 にも使用されるようになり、治安が悪化する。イラクでは誘拐事件が急増し、専門職の人々の国外への流出を促した。それは、保健・医療のサービスをさらに疲 弊させる。

紛争中・紛争後は性的暴力が急増し、特に少女(少年を含む)は、強かん、拷問、性的奴隷、人身売買、強制結婚のターゲットとされる(41)。コンゴ民主共和国では、性的暴力の被害者のうち33%が子どもだった。

被害者は、精神的なトラウマだけでなく、痔、感染症、低年齢の妊娠、出産時の合併症など長期間にわたる深刻な健康問題に苦しむ場合も少なくない(42)。さらに、強かんの結果生まれた子どもも、社会の周辺に追いやられる(43)。

家族による保護の喪失
戦争によって親や家族と死別あるいは生き別れてしまう子どもは、数限りない。親と離れた子どもは、不安、恐怖、帰属感・アイデンティティーの喪失、身体的・精神的なストレスにさらされる。このような精神的なストレスは、子どもの心身に大きな影響を与える(44)。

子どもたちは、親が殺害されたり、避難する際にはぐれてしまったり、自身が誘拐されて、親と離れてしまう。紛争時の過酷な環境では、親が傷病死する リスクも高い。家族と一緒に難民となった場合にも、キャンプを移動する際に、幼児がついていけなくなったり、迷子になってしまって、親と離れてしまう場合 もある。

ルワンダで、1994年に施設に収容されていた保護者のいない子ども8,628人のうち、41%(3,442人)は、両親と死別、35%(3,043人)は、両親の状況がどうなっているのか知らなかった(45)。

紛争時は、社会基盤が破壊され、大人であっても生き延びることは容易ではない。そのような状況にあって、家族と離れてしまった子どもたちは、教育や保健サービスを受けることが困難になり、さらなる搾取と虐待のリスクが高まる。

戦闘から逃れる際、水も食料も十分にない中を何日も歩かなければならないこともあるが、体力・抵抗力の弱い子どもは早く衰弱する。子どもだけで避難 している場合、攻撃や地雷などの危険から身を守る力が弱い。なかんずく少女は、道端で、もしくは、国境を越えるときや検問所を通る際に性的に搾取される危 険が高い。

親を亡くした子どもは、自らの身元を明らかにする書類も失うと、自分の家の土地を相続できなくなるなどの不利益を被ることがある。年少であれば、自分の名前、出自やアイデンティティーさえ分からなくなってしまうこともある。

また、たとえ土地を相続できても、作物を育てるための知識や体力が欠けていると生活していけない。畢竟、子どもだけの世帯は、軍隊や武装勢力に加わったり、危険で違法な労働や売春に携わるようになりがちである。

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