「私が『向こう』から来たことは秘密にしてくださいね」10代で日本の親戚を頼って脱北したリョンスさんは、私に会う度に釘を刺す。
北朝鮮北部に生まれた帰国者三世。今は大阪市内で衣料品販売の仕事をしている。もう日本生活が10年近くなるのに北朝鮮から来たことを隠して暮らす。
「北朝鮮の評判があまりに悪いので、ばれると白い目で見られるのではないかと怖い」という。
大阪南部の港町生まれのスンジャさんは、10代で両親と共に北朝鮮に渡った。数年前に政治問題に巻き込まれ、脱北して生まれ故郷の大阪に行くことを決心した。
昨年夏、乞われて彼女が生まれ育った町を一緒に周った。かつて住んでいた長屋は取り壊され、よく泳いだ海は護岸ブロックに覆われて、浜の面影は消えていた。
「でも一番変わったのは日本人の心やない?皆忙しくて、情がなくなったわ」
と嘆く。スンジャさんは今年60代になった。支援者以外に知り合いも少なく、寂しい日々を送る。
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