戦争による子供の死は、直接的な暴力より疾病によるものが多いとされる。社会インフラが破壊されて保健・衛生状態が悪化するためだ。社会基盤の弱体化がいかに子供の犠牲を増やしているか。京都女子大の市川ひろみ教授による報告。(整理/石丸次郎)
戦闘で社会基盤弱体化し衛生・保健が破壊
武力行使による直接の被害は、子どもたちに強いられる犠牲の一部でしかない。戦争によって社会基盤が破壊されることによる影響は、広範囲に及ぶ。
戦争では、軍事戦略の一環として、社会構造の破壊を目的とした危害が加えられる。道路や橋、鉄道等は、戦略物資の運送を妨害するために、たびたび破 壊される。検問所を設けて通行が管理されることもある。そのことは、物資の流通を阻害し、食料不足を悪化させ、子どもたちの栄養失調を招く。
道路や上下水道、通信網などの生活の質に大きく影響する社会のインフラが機能しなくなることによっても、保健・衛生状態が悪化する。医療施設も攻撃対象とされる。戦争直後のシエラレオネでは、地方にある保健施設のうち60%以上が機能していなかった(37)。
栄養、医療・保健サービス等の不足は、下痢による脱水症状や呼吸器疾患などによる死をまねく。栄養状態が悪いと、子どもは、軽微な病気でも死に至 る。1998年から2001年の間に、コンゴ民主共和国東部の武力紛争において死亡した250万人のうち3分の1は、5歳未満の子どもだった。
直接的な暴力によって殺されたのは14%(約35万人)で、残りは、病気や厳しい環境のために死亡した。彼らの死因は、マラリア、下痢、栄養失調、呼吸器疾患だった。
国連保健機関(WHO)によるボスニアでの1992年からの紛争による感染症についての調査は、水の供給不足のために前年と比較して、感染症の割合が激増(A型肝炎約4倍、全腸炎約13倍、疥癬約15倍)したことを示している(38)。
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