11月末、咸鏡北道のある協同農場で発生した農民たちによる抗議行動。不正をはたらいた幹部宅への投石が繰り返されるなど、北朝鮮では異例の集団抗議だっ た。事件の背景には、協同農場の運営方式の変化があった。農民たちが「個人担当制」と呼ぶ集団農業の「部分的解体」により、幹部たちの利権と権限が大幅に 縮小してしまったのだ。北朝鮮内部の取材協力者から届いた事件の詳報の二回目。(整理/カン・チウォン、石丸次郎)<<第1回へ

農民は社会の最下層におとしめられ疲弊が著しい。写真は黄北道のある農家で留守番をしている少女。2007年8月撮影シム・ウィチョン(アジアプレス)
農民は社会の最下層におとしめられ疲弊が著しい。写真は黄北道のある農家で留守番をしている少女。2007年8月撮影シム・ウィチョン(アジアプレス)

 

集団抗議の背景に集団農業の構造変化

北朝鮮の協同農場では、かつて数十人を単位として集団で構成していた分組が数年前から細分化され、事件が起こった農場では、昨年から分組の中でほぼ家族単位で生産を請け負う方式への転換が図られていた。

アジアプレスでは、北部の両江道、咸鏡北道の複数の農場の実態を調査してきたが、昨年から、農場として共同で耕作する農地(「共同地」と呼ばれている)と は別に、農場員の取り分(分配)を保障するための農地が定められ、そこでの生産高の70パーセントを農民の取り分とする新しい運営方法が採られていた。
これは、北朝鮮の官営メディアでも「圃田担当責任制」と紹介されていたが、実際に協同農場で実行されていることが確認された。ただ、調査した農場では、農民たちは「圃田担当責任制」ではなく「個人分担制」と呼んでいた。

一方、それまで農場内部で権勢を振るっていた農場の幹部たちは、「個人分担制」によって分組がほぼ家族単位に縮小再編されたことに伴い、その利権と権力は縮小することになった。
過去、収穫された生産物は農場で一括して脱穀・管理してから農民に「分配」されてきたが、この際に元来の規定をはるかに超えて、国家や農場が生産物を徴発 することが常態化していた。軍隊支援や、愛国精神の発揮、農場の経費などの名目である。このようなあからさまな収奪が、農民の困窮と生産意欲の著しい低下 の原因となっていた。

調査した農場では、今年から刈り取った稲を農民が自宅に持ち帰ることが認められたことは述べた。これは「個人農になったようなもの」と農民たちからは好評であるという。
「ただし、土地ごとの収穫ノルマは決められており、達成できようができまいが収穫量の30%は国家に納めなくてはならない。また、種子や肥料、農薬などは全て農民負担だ」
と取材協力者は伝えてきている。

新しい農場運営方法が増産につながるかどうか、国家による収奪がなくなるのか、判断は来年初めの軍糧米の徴収の時期まで待たなくてはならないだろう。

トウモロコシを兵士たちが道に広げて乾燥させている。農民にとっては収穫物を軍に徴発されることが生活の大きな脅威になっている。 2008年10月黄海南道にてシム・ウィチョン撮影(アジアプレス)
トウモロコシを兵士たちが道に広げて乾燥させている。農民にとっては収穫物を軍に徴発されることが生活の大きな脅威になっている。
2008年10月黄海南道にてシム・ウィチョン撮影(アジアプレス)

 

「個人分担制」の概要
複数の協同農場で調べた稲作における「個人分担制」の概要は次のようなものだった。ただし、これは全国的に実施されているのか、とりわけ穀倉地帯の黄海道 で実施されているのか不明で、また、作物ごとに差があるのか、土地の良し悪しをどう判断するのかなど、追加取材の課題が多いことをお断りしておきたい。

一つの作業班の耕作面積は5-6町歩(1町歩は9917.4平方メートル)で、このうち1町歩が前述した「共有地」で、残りを家族単位で農民に分担させることになった。
農場員には一人当たり150平方メートル程度の担当土地が配分された。さらに家族には小中学生なら80平方メートル、幼稚園生なら平方メートル70平方メートル程度が配分され、四人家族なら合わせて平均400-500平方メートル程になる。
この担当土地の生産高はあらかじめ定められ、その70パーセントが農民の取り分。この約束で今年の農作業は始まり、9月初めのトウモロコシの収穫ではその通りに実施された。
国家に納める30パーセントは、作況の良し悪しにかかわらず変動しない。営農資材の費用は農民負担。(「農民にとって条件厳しい」と取材協力者)

 

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