日本沿岸に北朝鮮のものと思われる漁船が相次いで漂着している事件。北朝鮮の漁業事情を探ると、最近、軍人が慣れない漁労に動員されて遭難事故が多発して いることが分かった。日本に漂着した船にあった約30の遺体にも兵士が含まれている可能性がある。北朝鮮内部の取材協力者が9日伝えてきた。(整理/カ ン・チウォン、石丸次郎)
◆水産事業所が軍人を動員
北朝鮮の沿岸漁業の現状を調査したところ、今年に入り、北朝鮮東海岸で漁船の遭難事故が多発していることが分かった。
東海岸には多くの漁業関連の「外貨稼ぎ基地」がある。主に軍や保安機関などの傘下の会社で、「水産事業所」と呼ばれており、漁獲物を主に中国に輸出している。この「水産事業所」の多くで、今年に入り軍人を動員して船に乗せて漁労に従事させるようになったという。
咸鏡北道に住む取材協力者は次のように言う。
「軍人たちは船の操舵なんか知らないし、海上では方向もわからない。魚の獲り方も知らない。それで船に漁師を一人乗せて送り出すのだが、事故が多発しているそうだ」
しかし、なぜ軍人が漁船に乗るようになったのだろうか。その原因は金正恩氏の「軍人たちに魚をしっかり食べさせよ」という<方針>にあるという。
◆金正恩氏の方針が軍人の動員の原因
今年に入り、金正恩氏は水産関連の企業や施設を頻繁に視察。その模様は官営メディアで繰り返し報じられている。例えば11月25日付け労働新聞は、軍部隊 傘下の「水産事業所」を訪問した金正恩氏が「軍人と人民に魚を十分に供給することは党の確固たる決心だ」と語ったと報じている。
金正恩氏の<方針>には絶対服従しなければならない。水産事業所では、海産物を軍に差し出さねばならなくなった。ところが漁労に投入できる人員が足りない。
「水産事業所では、魚を食べさせるという名目で、自分たちの船に軍人を乗せることを認めてもらった。一般人を使うと獲れた魚を報酬として分けなくてはならないが、軍人には必要ない。要は、軍人たちを働かせて金儲けしているのだ」
と取材協力者は言う。
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