イスラエル占領地を訪れ、パレスチナ人による抵抗運動・インティファーダを30年近く取材してきた古居みずえ、クルド地域やイラク、シリアに通い続 ける玉本英子(ともにアジアプレス)と、稲垣えみ子元朝日新聞論説委員を交えての座談会が昨年9月、東京で行なわれた。「前線」の現場はどういうものなの かを語る。(まとめ:古居みずえパレスチナドキュメンタリー映画支援の会)
稲垣:
私は新聞社で、若い記者の指導もしてきたんですけど、女性の場合に、ジャンプするというのか、現場に突っ込んでいく時も、こちらの想定を超えてやっていく 人が多いような気がします。ある種の大胆さというか、あまり後先を考えない、そこがすごく強みという部分もあると思います。
玉本さんが前線まで出て行かれるのには何かこだわりがあるんでしょうか。外国人も含めて、同じように前線で取材をやっている人というのは、結構いるんですか?
玉本:
2014年12月に行ったシリアのコバニには外国人記者はいました。でも、イラクでは、私が行く現場では見ることはないです。前線に行けばすべてわかると いうことではなく、もしかしたら、前線に行ったことで見えなくなるものもあるかもしれない、と思うようにしています。無茶はできません。治安当局や、現地 の人たちから情報を得て、結果、取材を中止することも結構あるのですが、何が起きているのか知るには、やはり前線に行かないと分らない。戦争の現場では、 いろいろなデマや噂が広がることがあります。その噂が本当なのかどうか、行って確かめないとわからないのです。
稲垣:
前線に行くと見えないもの、見えるもの、具体的に両方教えていただけますか?
玉本:
見えないものというのは、戦争の前線ではどちらかの側に同行して取材することが多いので、人間だから、一緒に行動する人たちの考えに引きずられやすくなるんです。そのあたりは抑えて、冷静に見られるように、気をつけています。
最前線に行けば、そこには兵士ばかりがいて撃ち合いがある、というイメージがありますが、それだけではない。以前行ったバグダッドでの最前線の通り には、文房具店が開いていて、小学生たちがノートを買いに来ていたり、普通の生活が営まれていた。バグダッドでは学校が開いていたので、子どもたちは「試 験があるし、勉強しないと」と言うんです。もっと厳しいシリアでの最前線では学校は閉鎖されていましたが、子どもたちは、ずっと家の中に隠れているのはつ らいから、ちょっと外へ出て、鬼ごっこでもしようというのがあった。そういう日常は、行ってみないと分らない。
古居:
私が行っているところは、状況が違うと思うんですね。前線に行かないと前線がないのではなくて、ガザ全体が前線になっている。私自身前線を撮りたいという 気持ちもありますけど、それと同時にその中に住んでいる人たちがどういう状況で生きているのか、爆撃のとき、どういう恐怖があって、どういうことを思って いるのか、そういうことを撮りたいなと思っています。そのなかで生きている人たちの気持ちとか、そういうのは撮っていかなきゃと思っているんですね。
稲垣:
確かに映画『ガーダ』を拝見すると、生活の場と前線が隣り合っていることが本当によくわかるんです。その怖さはすごく迫ってくるものがありました。
玉本さんは武器が実際に横にあって、銃弾が飛び交っているところにいる恐ろしさ、そこを避けてはいられない状況でどんな感じで取材されているんでしょうか?
玉本:
それは、怖いです。怖いけど、継続してやってきたことなので...。ケガをしたりして、周りの人に迷惑をかけないように十分気をつけています。経験のある現地の人たちのアドバイスに従う、という感じです。
古居:
やはり怖いですね。でも、怖いときに、カメラを通して見るから、そこに座っている人たちほどの恐怖はないわけですね。カメラがあるから、いいものを撮ろう とか、そういう意識が働くので、怖さが減る。だから、カメラがないとすごい恐怖だろうと思います。なんでそういうところに行くかというと、近づかないとわ からないからです。爆撃があっても生活はある、悲しいことも、楽しいことも。日常生活を私の場合は撮りたいと思うので、一緒にいたいと思います。