パレスチナやイラク、シリアなどの中東はイスラム教徒が多く、女性記者には不利とも言われるが、実際はどうなのか。中東の紛争地に20年以上通い続 ける、古居みずえ、玉本英子(ともにアジアプレス)と、稲垣えみ子元朝日新聞論説員を交えての座談会が昨年9月、東京で行なわれた。(まとめ:古居みずえ ドキュメンタリー映画支援の会)
◆女性だから伝えられるものとは......
稲垣:
女性だから伝えられる、あるいは伝えたいものはありますか?
古居:
女性だから撮れたというものもあると思います。出産とか、結婚式も女性じゃないと。あと、台所に入っていける。男の記者だったら、客間に通されて、男性の 兄弟か誰かがお茶を持ってきて、女性はカーテンを閉めてその後ろでお茶をいれているだけですから。そういう意味では女性が有利という面はあると思います。
玉本:
それほど男だから女だからというのはないのですが、イスラム国(IS)の戦闘員たちから性的暴行を受けたヤズディー(教徒)の女性などは、相手が女性記者 のほうが心を開きやすいということはあると思います。その反面、たとえば軍の同行取材をするとき、女は私一人なので、上官の部屋のすぐ隣で鍵付きの部屋を あてがってもらったりします。もし男性だったらもっと自由に気兼ねなく取材できると思うので、そういう部分ではちょっと損かな、と思います。
稲垣:
前線のようなハードな場所では、トイレとか着替えはどうしているのですか。
玉本:
着替えはしないですね、基本的に。お風呂も入らないし。顔を洗うのも遠慮しながら水を使います。外で寝ることももちろんあります。トイレがないところだったら、来ないでー! と言って、草陰なんかですませます。
◆日本の人たちに伝えたいこと
稲垣:
お二人の映像を拝見すると、食べるシーンが多い気がします。食べるシーンが出ると、ぐっと、ああ、同じ人間だよねっていう感じがすごくあるんですけど、その辺は意識して撮られているんですか。
古居:
食べるのが好きですし、やはり日常生活の表れなので、そういうシーンは撮っておきたいですね。ニュースだと本当に戦闘シーンや瓦礫ばかりで、まるで人間で はない「テロリストたちの戦い」みたいに思われるから、中で生きている、普通の生活をしているんだというところを出したいと思って撮影しています。
玉本:
私たちの日常生活とはかなり違うので、少しでも近い部分を見せたいというのがあります。お米やトマト、玉ねぎを食べている映像も見てもらえば、私たちと変 わらない、と感じてくれるかな、と。私がよく現地でお願いするのは、子どもたちにかばんの中身を全部出してもらうことです。教科書や、ノート、筆箱などを 見ると、ピカチュウの絵が描いてあったりする。それを写真やビデオに撮って日本の小学生に見せると、「イラクの子どもも一緒だ」って驚かれる。そういう小 さな部分から、同じ時代に生きている同世代の子ども、という現実を実感してほしいし、彼らに心を寄せてくれたら、という願いもあります。
稲垣:
いま日本の人に中東の何を伝えたいのか、そしてそれを伝えることで日本人にこういう風に考えてほしいとか、そういうところをどう考えてらっしゃるのか教えていただけますか。
古居:
中東だけではなくて戦争をやっているところはみんなそうですが、今の日本とすごくかかわってくると思っています。パレスチナの場合は、日本人に対してすご くいい印象があります。電化製品がすごいし、戦後、何もないところから這い上がって経済発展した国、そして原爆、広島・長崎を必ず知っているし、日本人に 対してある意味尊敬をもってくれています。それが変わりつつある。
それは湾岸戦争が最初でしたが、そのあと日本政府がイラク戦争を支持した時に、すごく反発が起こりました。日本は、これから先、アメリカと一緒に戦 争をするとなったら、アメリカはアラブ諸国にとって敵なので、結果私は敵の人間になるわけです。彼らは賢くて、日本人と政府がやっていることは違うと思っ てくれるんです。アメリカ人に対してもそうです。だけど、今までみたいにニコニコと、とはいかないでしょう。今度行ったらアメリカ人やイギリス人に対する ような態度で、私に接するようになると思います。(つづく)