建築物のアスベストが違法に除去されて飛散したり、ずさんな工事が始められかけて問題になる事例が相次いでいる。そうした際にどのような対応をすればよい のか。先進的な取り組みとして、事業者と行政、住民など関係者が問題点や疑問などを話し合って解決を図るリスクコミュニケーションという手法がある。とこ ろが、このリスクコミュニケーションのあり方を決める国の検討会が「秘密裏」に開催されていた。(井部正之)
◆問題の検討会を開催していた環境省
環境省のホームページに2015年10月19日付けで「平成27年度石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションのあり方検討業務」との入札公告があったため、筆者が確認したところ、環境省は今年1月12日に第1回会合を「秘密裏」に実施していたことを認めた。
同省大気環境課によれば、2013年2月の中間答申「石綿の飛散防止対策の更なる強化について」で「課題の1つとして、周辺住民への情報開示が挙げ られていた。法改正で掲示板の設置や事前調査の掲示はあるが、地域によっては住民説明会もやられている。そういった事例も踏まえて、ありかたを検討する」 という。
つまり、法律における最低限の義務を上回る、より丁寧な住民対応をした事例から、どのようなリスクコミュニケーションがあるべきかを検討するというものだ。
環境省のホームページによれば、化学物質に関するリスクコミュニケーションとは「環境リスクなどの化学物質に関する情報を、市民、産業、行政などの すべてのものが共有し、意見交換などを通じて意思疎通と相互理解を図ること」で、それが「環境リスクを減らす取り組みを進めるための基礎となる」という。 それならば、堂々と公開で実施するのが当然だろう。
ところが、同省の担当者は「自治体で具体的に事例とかを収集するということで、個人情報が非常に多いため非公開とさせていただいた」と説明する。
環境リスクコミュニケーションが専門の東京工業大学大学院総合理工学研究科の村山武彦教授は「リスクコミュニケーションに関する検討会で非公開という例は聞いたことがない」と呆れる。
たとえば、厚生労働省が2004年度に開催した「食品の安全に関するリスクコミュニケーションの在り方に関する研究会」のほか、文部科学省が 2013年度以降に実施する「リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会」など、リスクコミュニケーションと名の付く検討会は軒並み「公 開」である。
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