強い自己顕示欲
党大会を控えたこのような重要な時期に、金正恩氏は自身の訪中と支援獲得等が期待できる中国との関係改善に向かう道を断った。核実験をすれば中国も 含めた国際社会の制裁が強化されるのは目に見えている。しかし、金正恩氏は「水爆保有」の実績誇示を優先させた。この非合理な判断を下した理由は、金正恩 氏の強い自己顕示欲があったと思われる。
金正恩氏は自身の弱点を知っているはずだ。若さゆえの未熟と、実績と威信がないことである。韓国や外国のインターネットページ上に、自身を揶揄、風刺する記事や動画が溢れていること、北朝鮮国内での自身の評判がすこぶる悪いことぐらいは把握しているだろう。
北朝鮮に住む人々を取材していても、「あのガキが...」と侮り、「暮らしが悪くなった」と嘆き、年長の幹部を次々処刑していることに対しては、「残酷さは父親以上」「人の道に外れる」と非難する声が大半。金正恩氏を肯定的に評価しているという人は少数だ。
未熟さと実績のなさがコンプレックスであるがゆえに、虚勢を張り、強く自己を顕示するのだろう。祖父の金日成に似せた年齢不相応なファッションにこ だわるのも、核実験と「ロケット」発射の命令書にサインしている姿、「ロケット」発射指揮所で見守る姿をわざわざ公開したことも、そして党大会を開催しよ うというのも虚勢の現れに見える。
党大会が1980年以来開催できなかったのには理由がある。経済難が深刻化しているところに社会主義陣営が弱体化、瓦解へと進む中で、展望を示すどころではなかったのである。
今の金正恩政権に、難局打開の展望を示す戦略があるとはとても思えない。それでも父親金正日もできなかった党大会を開催しようとするのは、「一人前の指導者」であることを内外に顕示したいという欲望からきているのだろう。
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