「式には出たいのですが、やむを得ません」。大阪府立高校の卒業式を控え、M教諭(54)は複雑な胸の内を語った。当日は式場外勤務(受付)を命じられたという。学校側が「君が代」斉唱の時に起立しない教員を式場内に入れないための策である。(矢野宏/新聞うずみ火)
◆「いやなら公務員をやめろ」
昨年春、M教諭は1年生のクラス担任になった。担任だから入学式には参列したい。だが君が代の起立斉唱はしたくない。悩んだ末に当時の校長に相談すると、こう言ってくれた。「式の時に体調が悪くなることもあるわな」
入学式でM教諭は新入生を引率して式場へ入り、君が代斉唱の直前に退出した。式を終えたあと、校長室に呼び出され、事情聴取を受けた。校長は新しく着任してきたので事情を知らなかった。
「一時的に出ていったがどういうことか」
「体調が悪くなりまして」
「今回は処分しないが、卒業式では許さない」
大阪は人権教育や平和教育の観点から学校の儀式で日の丸掲揚・君が代斉唱を行うことに多くの教職員が反対してきた。「天皇を尊ぶ歌を強制するのは天 皇の権威を利用した『愛国心』の押しつけではないか」「かつて子どもたちに『愛国心』を強制し戦場へ送った過ちを再び繰り返すのか」「外国籍の子供たちに も君が代を強制するのか」など、現場では管理職との間で徹底的に話し合った。
だが、府教委は2002年から「国旗・国歌法」などを根拠にして各学校に君が代の起立斉唱を指導。後に、職務命令まで出した。
橋下府政が始まり、教育現場への締めつけが一段と厳しくなった。橋下知事は11年春の府立高の入学式で起立斉唱しなかった教職員が38人いたことを 問題視。ツイッターでこう呟いている。「バカ教員の思想良心の自由よりも子供たちへの祝福が重要だろ! だいたい公立学校の教員は、日本国の公務員。税金 で飯を食べさせてもらっている。国旗国歌が嫌なら日本の公務員を辞めろ」(5月17日)。
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