「偉大な領導者金正恩同志万歳」と書かれたスローガン。2013年9月に撮影された清津駅舎。この年、金正日→金正恩に標語が一斉に書き換えられた。(アジアプレス)
「偉大な領導者金正恩同志万歳」と書かれたスローガン。2013年9月に撮影された清津駅舎。この年、金正日→金正恩に標語が一斉に書き換えられた。(アジアプレス)

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助長される相互不信とルール逸脱
私的な理由から、生活総和を他人に対する人格攻撃に利用する者は、他にもいた。その場で相手が言い返し、口論になることもしばしばだった。

2017年夏のある日の生活総和で、ある同僚が年配の幹部の追い落としを画策したことがあった。その同僚はありもしない事実で幹部を陥れ、自分がその椅子に座ろうと狙ったのだが、あえなく失敗した。

その日の生活総和には、五つの部署から約30人の職員が参加した。私がそうであったように、相互批判では気持ちの通じる友人や、新人を相手にする方が無用な摩擦を生まずに済む。ところがその同僚は、自分の部署の幹部を痛烈に面罵したのだ。

「あなたは実力もなく他の職員の顔色ばかりうかがい、大変なことは若い者に任せきりにしている。暇さえあれば、勤務時間であろうがサウナに出入りし ている。幹部がそんな具合だから、職場がうまく回らない。年を取っているのはわかるが、幹部なら他の職員たちより頑張って当然だと思います」。

その幹部がサウナ好きなのは事実だったが、勤務時間にまで出入りするような人ではなかった。

幹部が「それは事実ではない」と進行責任者に言うと、逆に「少しでも不適切な点があれば、批判は受け入れるべきだ。そのように言い逃れするのは党的修養が不足している表れだ。それこそ批判が必要な点だ」と言い返されてしまった。

すると幹部は、こんどは件の同僚に対し、「おい、幹部の椅子がそんなに欲しいのか。だからといって、そんなやり方があるか」と言い、二人の間で口論が起きた。

その場はすぐに収まったものの、それ以降、二人の確執は激化し、その事実が上級党に報告されて検閲が行われる事態となった。その結果、同僚が事実を誇張していたことが明るみ出たのだ。

彼に対しては、建設現場での1ヶ月間の無報酬労働という処分が下された。無報酬労働というのは文字通り、「タダ働き」を意味する。

しかし、朝鮮は1ヶ月の食費が月給の数十倍もする国であり、皆が副業の収入で生計を立てている。だから本業の収入がなくなること自体には何の痛痒も感じない。
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