◆張成沢関連者3000人が農村に追放
2014年1月中旬、北部の両江道に住む取材協力者L氏が「張成沢(チャン・ソンテク)の件で、全国から『疎開民』たち3000人が白岩(ペ グァム)郡に来ることになった」と伝えてきた。
「疎開民」とは、都市部から農村に追放されてきた人達のことを言う。
その「疎開民」3000人は、直前の12月に「国家転覆陰謀」のかどで粛清・処刑された張成沢氏に連なる人脈、つまり張氏の親類縁者、平壌や地方に散在する部下や仕事上の関係者などだという。
3000人といえば、一つの里(農村における最小の行政単位)を遥かに超える大変な人数である。だが、超大物の張氏に連座した者たちだとすれば驚く数ではない。
それよりも、L氏からの報告を聞いて筆者の心が揺さぶられたのは、久しぶりに聞いた「疎開民」という言葉だった。
「疎開民」とは、平壌や都市から主に農村に強制移住、つまり追放させられた人々のことを指す。かなり古くから使われてきた表現であるが、平壌で長い間暮らした筆者をとても重苦しい気持ちにさせる。
その理由を説明するには、まず北朝鮮社会において追放がどのように位置づけられているのかを述べる必要がある。李氏朝鮮時代には「定配」と呼ばれた都市から地方への流刑処罰制度があったが、21世紀の朝鮮にも、政治的処罰の一種として「定配」は厳然と存在するのだ。
都市住民が追放される理由は様々だ。指導者や金氏一族、労働党に対する放言、失言あるいは愚痴が運悪く摘発されると、「マルパンドン(言葉の反動)」として追放処分になる事例がたくさんあった。
韓国や中国との秘密通話、密輸や人身売買への関与、不正蓄財、親類縁者の脱北など体制秩序を乱したとみなされたケース。そして冒頭にL氏が伝えてきたように、本人に何の罪もないのに、近しい人間の処罰に連座して追放されることも多い。
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