イラク北西部ニナワ県シンジャルは、クルド語を話す少数宗教ヤズディ教の住民たちが暮らしてきた。2014年8月、過激組織「イスラム国」(IS)はシンジャル一帯に侵攻、町や村を一斉に襲撃した。ISは住民にイスラム教への改宗を強要し、拒否した男性たちを次々と殺害、女性や子どもは「奴隷」として拉致していった。昨年11月、クルド部隊はシンジャル奪還戦を敢行、激戦の末、ISを町から追い出した。3月上旬、筆者は3年半ぶりに市内へ入った。(イラク北西部シンジャル/玉本英子)
◆IS拠点は米軍の空爆で破壊、砲弾が飛ぶ中帰還する避難住民も
レストランや商店が並んでいた市内中心部を歩く。3年半前にここを訪れたとき、人びとが行き交っていた大通りに人の姿はなく、瓦礫だけが広がっていた。ISが拠点にしていた商店は米軍の空爆で破壊され、焼け焦げた匂いがまだ残る。
コンクリートの壁には大きな穴が開けられ、かがんで中に入ると細く長いトンネルになっていた。マットレスや毛布が散乱する。IS戦闘員が防空壕として使っていたようだ。
ISの侵攻前、シンジャルには約7万人が住んでいた。虐殺や拉致から逃れることのできた住民は、治安が安定した北部クルド自治区の避難民キャンプなどで生活を続けている。
奪還戦でシンジャル市内は解放されたが、郊外ではまだISが活動しているため、町はクルド治安部隊ペシュメルガとイラク警察が警備する。いまもときおり砲弾が撃ち込まれ、上空には空爆を続ける戦闘機の音が響きわたっていた。
それでも町には住民の一部が戻り始めていた。アサド・ハッジ・スレイマン(39)さん一家は20日前、家族10人とともに避難民キャンプから戻ってきた。家はところどころ損壊し、家具も略奪されていた。
「ISの攻撃は怖い。しかしテント暮らしの避難民生活は辛すぎた」とアサドさんは話す。シンジャルで警察の仕事を得たのも帰還を決めた理由だったという。
「復讐したい」と銃をとるヤズディ青年も...