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f026fa05b16e6183bd5a6e0f29ff502aウクライナ科学アカデミーのウラジミール・ティヒーさんによると、「2000年以降、チェルノブイリ関連年金や医療費の支払いは危機的になりました。事故の被害者である年金生活者などが何倍にも増えて、国家予算にはお金がなくなり、関連する訴訟も増えています」とし、「14年に成立した法律では、一部のリクビダートルに対して医療費や付加的年金を決める機関が内閣の大臣に委任され、『執行可能な予算』に従って割り当てられることになりました」。つまり長い年月の間に補償対象者が増えていく一方で、その予算は削減されていったのであった。

チェルノブイリ原発4号機は、周囲に飛び散った核燃料などを、ほとんど人の手によって集めて炉心部分に放り込むなどした後、「石棺」と呼ばれるコンクリート製の構造物で覆われた。

しかし、その「石棺」も老朽化が激しくなってきたため、現在新しいシェルターを建設中で、今年中には「石棺」ごと4号機を覆う予定だ。新しいシェルターの耐用年数は100年。総工費は2000億円と言われ、ヨーロッパやアメリカに加え日本政府も出資している。新シェルターで覆った上で、「石棺」の解体や溶融核燃料の取り出しなどの廃炉作業を進めていくというが、具体的な計画は立っていない。また、仮に核燃料を取り出したとしても、その保管場所は全く白紙で行き場がない状況だ。

ティヒーさんは、講演の最初に「チェルノブイリ原発事故を語るとき、私たちは『今なら知っていること』と『当時知っていたこと』を区別するべきです」と強調した。それは福島第一原発事故についても言えることだろう。もちろん、チェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故とを単純に比較することはできない。しかし、巨大事故によって社会がどのように変わり、被害がどのように広がっていくのか、そして長い年月の間に事故の被害者はどのような状況に置かれていくのかについて、チェルノブイリ原発事故は私たちに多くの教訓を示し続けてきたのである。

30年前の教訓を無視した結果、私たちはその四半世紀後に原発の巨大事故を招いてしまった。その反省に立って、今一度チェルノブイリ原発事故を見直し、福島第一原発事故の「今後」にその教訓を活かしていかなければならない。そして、チェルノブイリにおける数々の過ちを見出して、それを繰り返さないことが求められているのだ。特に、事故被害の把握や、被害者の救済や補償について、誤ちの繰り返しは許されない。
(新聞うずみ火編集委員 高橋宏)

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